(※写真はイメージです/PIXTA)

欧州やアジアでは、オミクロン株の系統株「BA.2」により新型コロナウイルスが再拡大しています。「ステルスオミクロン株」とも呼ばれ、現在の主流株以上に感染力が強いとされる「BA.2」は今後、どれだけ拡大するのでしょうか。感染状況に欧州との相関関係が見られるアメリカと、4月中には検出割合がほぼ100%「BA.2」になると予測される日本、この2ヵ国への影響を考えます。

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米国でも「BA.2」は拡大する?専門家の見通しは様々

米疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、私が住んでいるニューイングランド地方では、2022年3月19日の時点で、オミクロン株の亜種「BA.2」が感染者の半分以上(55.4%)を占めています。全米では「BA.2」が34.9%を占め、2月初旬の1%から増加しています(※1、2)

 

2022年3月22日のボストン・グローブは、ヨーロッパで「BA.2」の感染者が増えた理由は、以下の3つの要素が考えられると指摘します(※2)

 

1)他の亜種から、より感染力の強い「BA.2」が優勢になった

2)社会の再開

3)ワクチンや先行感染による免疫力の低下

 

そして、この3つの要素はすべて米国にも存在する、と専門家は述べています。ただし米国では、昨年末からの急増したオミクロン株の流行による感染者数、入院数、死亡数は大幅に減り続けています。それでも今後、ヨーロッパのように、米国でも、「BA.2」による患者数や入院者数の増える可能性があるのでしょうか? 以下のように、専門家の意見が分かれています(※2、3)

 

バイデン大統領の首席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ博士は米ABCニュースの「This Week」で、「最終的には、ヨーロッパ諸国、特に英国で見られたように、我々は(米国)患者が増える可能性があります」ただし、「うまくいけば、急増は見られません。私たち(米国)はそうしないと思います」と語りました。

 

ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのウイルス・ワクチン研究センター長ダン・バロウチ博士はボストン・グローブに、「米国ではBA.2が優勢なウイルスとなる可能性が高い」「しかし、BA.2による本格的な急増はないでしょう」と述べています。

 

一方、スクリプス・トランスレーショナル研究所のエリック・トポル所長は「米国では今後数週間から、オミクロンの子孫であるBA.2による症例が増える可能性が高い」「ここでBA.2の波が来るのは必然です」と言います。また、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のケリ・アルソフ研究員は、「CDCの症例数は、検査を受けなくなった人や自宅で検査をして結果を報告しない人がいるため、本当の数を過小評価しています」また、「すべての検体が遺伝子配列の解析で、変異型を特定できるわけでもありません」と注意を促しています。

 

※1 https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#variant-proportions

※2 https://www.bostonglobe.com/2022/03/22/nation/cdc-omicron-subvariant-ba2-now-accounts-more-than-half-covid-19-cases-new-england/

※3 https://www.bostonglobe.com/2022/03/22/nation/omicron-subvariant-takes-hold-us/?p1=Article_Inline_Text_Link

これまで欧米の拡大状況には「相関関係」があったが…

2022年3月18日のアトランティック誌は、次のように報じました(※4)

 

「昨年のヨーロッパのデルタ株、オミクロン株の流行をみると、アメリカのパンデミックの未来を水晶玉のように覗いているような気がしたのは事実です。イギリスでは、6月上旬に患者数が増え始め、約1ヵ月後にピークに達し、8月上旬に底を打ちました。米国では7月に急増し、9月にピークを迎え、10月に底を打ちました。英国は12月10日頃から再び急増し、1月4日にピークを迎え、米国はそれぞれ12月18日、1月10日にピークを迎えました。英国は2月末にオミクロン後の谷に入りました。このパターンが続くなら、私たちも今頃、谷に入るはずです…」

 

ただし、この相関関係は常に保たれているわけではありません。米国と欧州の国々では、変異のレベル、過去の感染歴、パンデミック政策などの違いにより、患者数が異なる方向に進む可能性があるのです。

 

ハーバード大学疫学者ビル・ハネージ博士は、2022年3月17日の記者会見で、「米国の経験をヨーロッパのものから引き離すものがいくつもある」と語りました(※4)

 

ヨーロッパが二歩先を行くこともあるのは、偶然かもしれません。これまで最も影響力のあったアルファ株、デルタ株、オミクロン株は、英国、インド、南アフリカなど、米国よりも欧州とのつながりが深い場所で最初に確認されました。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の感染症モデル研究者であるグラハム・メドレー博士は、「もし次の亜種がブラジルで発生したら、ヨーロッパに来る前にアメリカへ行く可能性がはるかに高くなります」「私たちは皆、お互いにフォローし合っているのです」と言います(※4)

 

※4 https://www.theatlantic.com/health/archive/2022/03/omicron-subvariant-new-covid-wave/627094/

※5  https://www.visualcapitalist.com/air-traffic-network-map/

米国では、BA.2の影響は「欧州より小さい」と予測

ジョンズ・ホプキンス大学の疫学者ショーン・トルーラブ博士は、「ワクチン接種率、使用するワクチンの種類、以前の感染パターンなども、ヨーロッパ→アメリカの傾向に影響を与えた可能性があります」「たとえば、英国のワクチン接種の初期によく使われたアストラゼネカ社のワクチンは、米国で当初から最も人気のあったファイザー社やモデルナ社のワクチンほどには感染を防げません」「非常に複雑なシステムなので、正確なことは言えませんが」とアトランティック誌で語ります(※4、6、7)

 

また、政策や行動の違いも、今の感染の状況に影響する可能性があります。「現在、ヨーロッパでは、政策や行動がまちまちであると言っていいでしょう。イギリスでは、ウイルス検査で陽性となった人は、もはや自己隔離を求められることはありません。一方、スペインとイタリアではつい最近、屋外でのマスク着用義務付けが取り下げられました。多くのヨーロッパ諸国で撤回された規制の中には、アメリカや多くの国で実施されたことのない規制も含まれています」「この数週間、ヨーロッパ人の生活はアメリカ人よりも急速に変化しています」とハネージ博士は語りました(※4)

 

米国では、昨年の夏以降、新型コロナの規制はあまり行われていません。「BA.2がヨーロッパに進出したとき、すぐに増えました。米国では、BA.1やBA.1.1と競合しているためか、その伸びはかなり遅い」とハネージ博士は言います(※4)

 

これらのことから、BA.2の影響は、米国ではヨーロッパよりも小さいと考えられます。

 

※6 https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(21)00542-7/fulltext

※7 https://www.statista.com/statistics/1195885/covid-19-vaccines-by-contract-size/

日本では「BA.2」等が感染拡大する可能性アリ

以上、ヨーロッパで急増する「BA.2」の感染ですが、米国では今後急増しない可能性があります。それでは、日本ではどうでしょうか? 冒頭のボストン・グローブの3つの要素を振り返ってみましょう。

 

1)他の亜種から、より感染力の強い「BA.2」が優勢になった

2)社会の再開

3)ワクチンや先行感染による免疫力の低下

 

私が一番気になることは、欧米に比べて、日本は社会の再開が遅れていることです。今後、鎖国状態が終わり、水際対策が緩和されれば、前述のように世界とのつながりによる影響が高まることでしょう。また、日本はワクチンの2回接種率は高いものの、ブースター接種の遅れと、先行感染が少ないことから、新型コロナに対する免疫力が低い可能性があります。つまり、今後、ヨーロッパのように、日本でも「BA.2」や他の亜種による感染が増える可能性があります。

 

ネイチャー誌によると、カタールの大規模な観察研究の結果、ファイザー社またはモデルナ社の新型コロナワクチン2回接種後、オミクロン株「BA.1」や「BA.2」の症候性感染から数ヵ月間予防できたものの、4〜6ヵ月後には10%程度にまで効果が低下しました。ただしブースター接種により30〜60%まで上昇したとのことです(※8)。英国の調査からも、同様の傾向が認められました。新型コロナワクチン2回目接種から25週間以上経つと、その効果は20%未満に下がりました。ただしブースター接種2〜4週間後には約70%まで回復しました(※8)

 

まだワクチン未接種の方、ブースター接種を受けていない方、オミクロン株BA.1やBA.2の感染を防ぐためにも、今からでも遅くありません。早めにワクチンを接種しましょう。

 

※8 https://www.nature.com/articles/d41586-022-00775-3

 

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。