重金属で汚染された土壌を修復する際、これまでは非汚染土壌を客土する方法や、汚染物質を化学的に除去する方法が用いられていましたが、近年、ファイトレメディエーション(phytoremediation)と呼ばれる植物を活用した修復技術が注目されるようになりました。本記事では、雑草学博士の小笠原勝将氏が、土壌汚染を修復することができる雑草について解説していきます。
汚染された土壌を修復できる…農学博士が語る「雑草」の凄み (※写真はイメージです/PIXTA)

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ファイトレメディエーションに適した雑草の見つけ方

重金属は分解できないことから、ファイトレメディエーションでは、土壌中の重金属を植物の根に吸わせるか、あるいは植物の根圏に固定させるかのいずれかになります。

 

一方、重金属汚染地では、単に過剰の重金属が蓄積しているだけではありません。土壌の排水性が悪かったり土壌が貧栄養であったり、場合によって日当たりの悪い所もあります。

 

このことから表1に示すように、ファイトレメディエーション植物には重金属に耐性を示すことはもちろんのこと、汚染地の気象条件や土壌条件下でも旺盛に生育することが求められます。また、病害虫に強いことや在来植物であることも維持管理や地域生態系を保全する観点から求められます。

 

これらの要求を満たす植物がどこに生育しているかといえば、それは汚染地あるいは汚染地周辺ということになります。したがって汚染地の雑草植生を詳しく調べることにより、ファイトレメディエーションの候補植物を容易に見つけ出すことは可能です。

雑草種子を低コストで安定的に供給する方法はあるのか

たとえ有望な雑草が見つかったとしても、大量の雑草種子や栄養繁殖器官をどうやって低コストで安定的に供給するかという問題が生じてきます。しかしこの問題は候補植物が生育している表土を利用することで解決できます。

 

候補植物は汚染地以外の場所にも生育しており、そこの表土にたくさんの種子や塊茎が含まれているからです。

 

以下に、筆者らがカドミウムを対象に123種類の雑草を用いて行ったファイトレメディエーション研究の概要を説明します。まず、どんな雑草がカドミウムに強くて、どんな雑草が弱いのかを調べました。

 

その結果、図表2に示すように、カドミウムに対する雑草の感受性は科によって異なり、イネ科雑草が非感受的であるのに対して、マメ科雑草が感受的であることが分かりました。

 

[図表1]雑草のカドミウム感受性

 

カドミウムに強いイネ科雑草は土壌修復に利用できますし、カドミウムに弱いマメ科雑草も検出植物として利用できます。具体的には、カドミウム汚染地にマメ科雑草の種子を播種するかあるいはマメ科雑草の種子を含む表土を撒きます。

 

マメ科雑草はカドミウムに敏感ですから、発芽すればその場所のカドミウム濃度が低いことになり、逆に発芽しなければ土中に高濃度のカドミウムが残留していることになります。

雑草を用いたファイトレメディエーションの利点

土中のカドミウム濃度は化学分析で調べることもできますが、土壌汚染が広範囲に及ぶ場合は、カドミウム濃度が汚染地全域で必ずしも均一ではないことから、多地点から土壌サンプルを採集する必要があり、分析コストが高くなります。

 

これに比べて、雑草を用いたファイトレメディエーションでは雑草種子を播種するか雑草種子を含む表土を撒くだけですから、低コストでしかも長期の経過観察が可能になり、土壌汚染の修復経過を視覚化できるというメリットもあります。

「重金属を茎や葉に蓄積する植物」の活用法

雑草の茎葉(Shoot)と根(Root)に含まれるカドミウム濃度の比(S/R比)も全雑草について調べてみました。その結果、表3に示すように、キクニガナをはじめとするキク科雑草は根よりも茎葉に多量のカドミウムを蓄積するのに対して、オオクサキビをはじめとするイネ科雑草は逆に茎葉より根に多量のカドミウムを蓄積することが分かりました。

 

[図表2]雑草のカドミウム吸収部位

 

S/R比とはカドミウムが雑草の茎葉と根のどちらに蓄積されやすいのかを表す指標であり、雑草が重金属回収型と重金属固定型のいずれのファイトレメディエーションに適しているのかを判断する基準になります。

 

すなわち、重金属を茎葉に蓄積する植物では、植物に重金属を吸収させた後に茎葉を刈り取って化学的な処理により重金属を抽出・回収することができます。

「重金属を根に蓄積する植物」の活用法

一方、重金属を根に蓄積する植物では、たとえ根に重金属を蓄積させることができたとしても、その根を回収するのに莫大なコストがかかることになることから、この場合は重金属を根から回収するよりも、重金属を植物の根域に固定させて外部に漏れないようにすることが有効な方法になります。

 

このことから茎葉よりも根にカドミウムを蓄積するイネ科雑草はカドミウムを根系に固定して汚染地から外部への漏出を防ぐ固定型のファイトレメディエーションに適していると考えられます。

 

ここでは研究の一部しか紹介しませんでしたが、重金属の蓄積部位や蓄積量だけでなく、根の形成深度や形成量もファイトレメディエーション植物を選ぶ際の評価ポイントになりますが、まだまだ不明な点が数多く残されており、今後のさらなる研究が待たれるところです。

 

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小笠原 勝


1956年、秋田県生まれ。1978年、宇都宮大学農学部農学科卒業。1987年、民間会社を経て宇都宮大学に奉職。日本芝草学会長、日本雑草学会評議委員等を歴任。現在、宇都宮大学雑草管理教育研究センター教授、博士(農学)。専攻は雑草学。 主な著書「在来野草による緑化ハンドブック」(朝倉書店、共著)「Soil Health and Land Use Management」(Intech、共著)「東日本大震災からの農林水産業と地域社会の復興」(養賢堂、共著)研究論文多数。