(※写真はイメージです/PIXTA)

福島県いわき市で乳がん診療に従事する尾崎章彦医師は、「40歳以上の女性は最低2年に一度は検診を受診していただきたい」と語ります。新型コロナウイルスが流行している今だからこそ知ってほしい、「乳がん」の正しい知識を見ていきましょう。

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日本人女性が発症する「がん」、最多は「乳がん」

読者のみなさん、はじめまして。福島県いわき市で乳がん診療に従事している尾崎章彦と申します。現在の日本において、乳がんは最も発症数の多い女性のがんです。1年間に乳がんを発症する女性は9万2300人(2020年)と、女性の約9人に1人が一生のうち乳がんを発症すると言われています。

 

また、その治療成績は他の固形癌に比べると良好ですが、2019年には、1万4935人の方が亡くなっており、さらなる治療成績の向上が必要です。また、新型コロナウイルスの流行が乳がん診療に与えた影響についても気になるところです。今回は、身近な病気である乳がんという病気について、ぜひ一緒に勉強しましょう。

最低でも「2年に一度の検診」が命を守る

まず、本稿を通してみなさんに最も伝えたいことは、40歳以上の女性は最低2年に一度は検診を受診していただきたいということです。というのも、乳がんは数あるがんのなかで、検診の効果が確立されている数少ないがんの一つだからです。

 

すなわち、検診によって早い段階で病気を発見することができれば、多くのケースにおいて、より体に負担が少ない治療で病気の治癒を目指すことができます。

 

乳がん検診によって広く実施されているマンモグラフィー検査を2年に一度継続的に受診することで、乳がんによる死亡率が20%低下することがわかっています。その意味で定期的な乳がん検診受診は非常に重要と言えます。

症状が出た場合は「3ヵ月以内」に受診

そして、筆者が検診と同等、あるいはそれ以上に重要と考えているのが、乳がんに関する症状を自覚した場合、できるだけ早く医療機関を受診していただきたいということです。

 

なぜならば、一般に検診で指摘される乳がんよりも症状をきっかけとして見つかる乳がんのほうがより進行していることが多いからです。

 

症状を自覚した後、医療機関受診までの期間が3ヵ月以上経過することで、乳がんの死亡率が上昇することが知られています。乳がんの代表的な症状は胸のしこりや乳首からの赤色の分泌物などです。

 

もちろんそのすべてが乳がんに伴うものというわけではありません。ただ、このような症状が現れた場合、医療機関を一度受診して、深刻な病気がないかぜひ専門の医師と確認しましょう。

コロナ禍、「受診控え」で乳がんの発見が遅れるリスク

最後に、2019年から私たちの生活に影響を与えている新型コロナウイルス流行が、乳がんの診療に与える影響について考えてみます。

 

現時点で、乳がん患者に限って、新型コロナウイルスに感染後の死亡率を、一般の方々と比較した調査はありません。

 

しかし、「米国医師会雑誌腫瘍学版」に2021年10月に掲載された調査によると、過去3ヵ月以内に放射線治療や化学療法を受けたがん患者においては、一般の方々と比較して、新型コロナウイルス感染後の死亡率が上昇することが明らかとなっています。

 

その意味で、乳がん患者さんにおいても、現在治療を受けている方々は、十分に注意が必要です。

 

それに加えて、筆者が心配しているのが、受診控えです。新型コロナウイルスへの感染を恐れるあまり、定期検診や受診を先延ばしにしたり、乳がんを疑うような症状を自覚しているにもかかわらず医療機関への受診を控えたりということが現実に起きています。

 

日本対がん協会によると、乳がんを含む5つの主要ながん検診(胃、肺、大腸、乳、子宮頸)の2020年の受診者は、のべ394万1491人で、2019年の567万796人から172万9305人減少しています(対前年比30.5%減)。

 

また、筆者の医療機関においても、コロナ禍で、乳房のしこりがあるにも関わらず、新型コロナウイルスへの感染を恐れて、1年以上症状を放置して、最終的にはステージⅣで指摘されるような乳がん患者さんも認めています。

 

このように、受診控えが長く続けば、より進行した状態で乳がんが指摘される可能性が上昇するなど、乳がん診療に深刻な影響をもたらす可能性があります。

 

■コロナ禍と震災…「目に見えないものへの恐怖」が乳がん診療に与える影響

そして、筆者がこのように訴えるのには理由があります。筆者は、これまで、震災後の浜通り地方において、東日本大震災と福島第一原発事故が現地の乳がん診療に与えた影響について調査を行ってきました。

 

たとえば、福島第一原発の北10-40kmに位置する南相馬市においては、震災前の2009年と2010年の乳がん検診の受診率はそれぞれ19.8%と18.2%でしたが、震災が発生した2011年は4.2%、震災翌年の2012年も8.2%と減少し、元の水準に戻ったのは、震災から5年が経過した2016年でした。

 

また、震災前、症状を自覚して医療機関をはじめて受診するまでの期間が3ヵ月以上要する乳がん患者さんの割合は18.0%でしたが、震災後は29.9%まで上昇していました。同様に症状自覚後1年以上医療機関受診が遅れるような乳がん患者さんの割合は4.1%に過ぎませんでしたが、震災後は18.6%に及んでいました。やはり、このような変化が震災後5年間にわたって継続していました。

 

これは、震災によるインフラ等の破壊を原因と考えるには若干無理があります。むしろ、震災後の環境変化で知らず知らずのうちに自身の健康や医療機関受診の重要性が下がってしまった可能性があると考えています。

 

筆者は、「目に見えないものへの恐怖」という意味で、現在の新型コロナウイルスの流行と放射能災害には類似性があると考えています。また、本稿を執筆している2022年1月13日現在、新型コロナウイルスの感染者は急激に増加しつつあります。その点、コロナウイルスに対して適切な感染対策を講じつつ、必要に応じてタイムリーに医療機関を受診するよう、啓発が必要であると考えています。

 

乳がん患者の不安な症状があれば、まずお電話でも構いませんので、お近くの医療機関とコンタクトをとってみましょう。

 

 

尾崎 章彦

常磐病院 乳腺外科医

 

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。