専門家の立会わない出産「無介助分娩(プライベート出産)」は国の政策やガイドラインによる規制があるにも関わらず、年々増加傾向にあります。本記事では、助産師の市川きみえ氏の著書『私のお産 いのちのままに産む・生まれる?』より一部を抜粋し、「無介助分娩(プライベート出産)」はどのような出産で、どういった動機のもとに行われているのか、経験者の声を紹介していきます。
助産師の対応に安心できず…4人の子どもを「無介助分娩」した、経産婦の生の声 (※画像はイメージです/PIXTA)

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自宅出産を希望し、引き受けてくれる助産所を探すも…

A・Fさんは2008年から2015年までに、4人の子どもをプライベート出産しています。

 

A・Fさん夫婦が出産について考え始めたのは第1子を妊娠してからです。出産場所を決めるために夫婦で病院、診療所、助産所など10か所以上の施設を受診し話を聞いた結果、自宅出産を希望するようになり、引き受けてくれる助産所を探しました。

 

ところが、助産師の対応に安心できず、プライベート出産をすることに決めました。

A・Fさん「そこまで不安をあおる必要があるの?」

A・Fさん「助産師さんは、自宅で産めなくなる要素、(例えば)赤ちゃんの体重が何g以下だったら病院で産むことになるとか、自宅出産(に立会う助産所で)は、引き受けても(経過の途中で何らかのリスクが見つかり)結果的に3分の1は病院で産んでいるとか、(自分は)健診で異常があったわけではないのに、これ以上こうなったら…と不安をあおる。そこまで不安をあおる必要があるの?……」

 

夫「(別の助産所にも行ったけれど)助産院も病院と同じで慣例的。”助産師がこうします。自分たちプロでやっているので”って、産む側に選択肢が与えられない(ことがわかった)。

 

(略)どこに行っても、こういう問題が、ああいう問題が、そんな話ばっかり。自分たちを安心させる言葉がない。今の医療者(医師も助産師も)は、危険回避。助産師は、置かれている立場から産婦を安心させることはできないんだと思った。自分たちが専門家・医療者に求めていたことは、“大丈夫、元気な赤ちゃんが生まれます”の一言だったのに、誰一人言ってくれなかった」

医師・助産師が、妊婦や夫を不安にさせるのはなぜか

なぜそれほどまでに医師も助産師もさまざまな問題を提示し、妊婦やその夫を不安にさせるのでしょうか。

 

A・Fさんが出産した2008年という年をキーワードに産科医療の背景を考えてみると、2004年に福島県立大野病院で産婦が死亡し、2006年に産科医が逮捕されるという異例の医療事故が起こりました。そして、同じ2006年に奈良県大淀町立大淀病院で、2007年奈良県橿原市で、2008年には東京都墨東病院で妊婦のたらい回し事件が起こっています。

 

助産所では、2004年に『助産所業務ガイドライン』(日本助産師会 助産所部会役員会、安全対策委員会、安全対策室編集、2006[初版2004]、『助産所業務ガイドライン』社団法人日本助産師会)ができ、病院との連携強化のため、医療法第19条の改正(厚生労働省、2007、「医療法改正の概要(平成18年6月公布、平成19年4月施行)」)により、2007年より嘱託医療機関の義務付けがなされました。

 

A・Fさんの訴えからは、産科医療は安全を保障しようとするがゆえに、医師も助産師も保守的になり、より管理を強化しようとしていた様子が見え隠れします。

 

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市川 きみえ

助産師

清泉女学院大学大学院看護学研究科・助産学専攻科・看護学部看護学科 准教授

1984年大阪市立助産婦学院卒業。大阪市立母子センター勤務の後、医療法人正木産婦人科にて自然出産・母乳育児推進に取り組み、2011 年より助産師教育・看護師教育に携わっている。2010年立命館大学大学院応用人間科学研究科修士課程修了 修士(人間科学)。2018年奈良女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了 博士(社会科学)。2021年より現職。

著書に『いのちのむすび─愛を育む豊かな出産』(晃洋書房)がある。