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雑草には、環境によって姿形を変える能力がある
雑草は種子の発芽特性の他にも、環境によって姿形を変える能力を持っており、これを形態的可塑性と呼んでいます。
例えば、スズメノカタビラという1年生のイネ科雑草があります。五年間、一度も草刈りをしなかった果樹園とほぼ毎日のように刈り込みが行われていたゴルフ場のグリーンから植物体を採取して、その植物から得た種子をポットで育てたのが写真1に示すスズメノカタビラです。
表1に示すように、果樹園由来の個体は10センチメートルほどの草高になりますが、ゴルフ場のグリーン由来の個体は6センチメートルほどにしかなりません。また、果樹園由来個体の穂軸は斜上しますが、グリーン由来個体の穂軸は水平か下方に向いています。
グリーンでは頻繁な刈り込みが行われているだけでなくプレーヤーによる踏みつけが激しいことから、スズメノカタビラが矮化するとともに刈り取りから穂を守るために穂軸を寝かせるようになったのではないかと考えられます。
スズメノカタビラが芝生の強害雑草である理由とは?
さらにスズメノカタビラは姿形を変える他にも、実に巧妙な環境適応戦略を持っています。それは花の種類と開花の順番です。
一般的には、一つ花に雌蕊と雄蕊があり、両者が受精することによって種子(繁殖体)が作られますが、写真に示すように、スズメノカタビラには雌蕊だけの雌性小花(しせいしょうか)と雌蕊と雄蕊の両方を有する両性小花(りょうせいしょうか)の二種類の花(小花)があります。
そして、開花の順番も雌性小花と両性小花で異なり、小穂の先端に位置する雌性小花が最初に咲き、それに続いて両性小花が咲きます。しかも両性小花は雌性小花が開花している期間内は閉じています。雌性小花が先に咲くということは、受粉の際に別の小穂の花粉が必要になり、他家受粉の起こる 確率が高まることになります。続いて起こる両性小花における受粉は自家受粉です。
つまり、スズメノカタビラは他家受粉と自家受粉を並行的に行い、遺伝的な多様性を獲得しながら自己の遺伝的特性を保全していることになります。
さらに驚くべきことに、スズメノカタビラは他家受粉と自家受粉の2つの生殖様式に加えて、雌蕊と雄蕊の受精を経ずに繁殖体を作る無融合生殖を行っている可能性があります。スズメノカタビラは形態の可塑性や種子休眠性だけでなく多様な繁殖様式を併せ持っているのですから、芝生の強害雑草になるのも頷けます。