所得次第では「基本的な控除」も不可能…“富裕層いじめ”の税制改正、「有効な節税策」はないのか?【税理士が解説】

所得次第では「基本的な控除」も不可能…“富裕層いじめ”の税制改正、「有効な節税策」はないのか?【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

富裕層に対する課税は年々厳しさを増す一方です。12月10日に公表された令和4年度税制改正大綱では、事前に噂されていたような「暦年贈与を活用した相続税対策が使えなくなる」などの大きな改正は含まなかったものの、所得によっては最も基本的な控除まで受けられないなど、富裕層にとって厳しい内容であることに変わりはありません。さらなる課税強化が見込まれる今後、資産を守るためには、どうすればよいのでしょうか? 多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が解説します。

増え続ける富裕層は「課税強化」格好の的

近年、富裕層に対する課税が年々強化され続けている。特に海外財産に対する監視がより強化され2014年の国外財産調書の提出が義務付けられたのをはじめ、2015年には国外転出の際に有価証券の含み益に課税される所得税(出国税)が課されるなど、国際課税強化が目に付くところではあるが、それに加え、近年では高額所得者を対象とした、給与所得控除額の上限額の縮小、配偶者控除の改正や基礎控除の改正により、富裕層は所得によっては基本的な控除すら受けられることできないという、いわば富裕層いじめとも言える税制改正が目に付くところである。

 

富裕層とは、どの層を言うのであろうか。野村総合研究所によれば、純金融資産保有高1億円以上を富裕層としており、さらに超富裕層とは純金融資産保有高を5億円以上として設定している。2019年における純金融資産保有高1億円以上の富裕層は124.0万世帯であり、超富裕層は8.7万世帯となっている。アベノミクスが始まった2013年以降、一貫して富裕層の数は増加を続けている状況である。

 

これを課税当局からしてみれば、一般的なサラリーマン家庭の平均給料はここ20年ぐらい横ばいで変わっていないのに対し、手取り額においては社会保険料の負担増、各種所得控除の縮小等により、平均的サラリーマンの手取りは減少し続けている。また、消費税の10%への増税なども考慮すると、これ以上平均的な勤労世帯に対する負担を強いるのは難しいと感じているのかもしれない。

 

このため、当局としては富裕層に対する課税を強化し、税収を増やそうと考えているのであろう。また世界的にも、富裕層に対する課税を強化するべきであるという大きな流れがある。たとえばアメリカなどは、10年前は全米資産の3割を保有するのが上位29%の人々であったのに対し、現在は株価の上昇などにより、富める者がますます富み上位1%で全米資産の3割を保有するという状況になっている。富の偏りが非常に極端になっている状況であるため、富裕層に対して課税を強化せよという意見が勢いづいている。

財源確保のためとはいえ、これ以上の増税は「過剰」

ここで、基本的なことであるが、なぜ増税が必要であるかを考えてみたい。それは日本国の財政がかなり深刻な状況であるということである。国税庁の資料によると、令和3年度末の普通国債残高は990兆円になると見込まれている。日本の国家予算が約100兆円であることから、実に国家予算の10倍の借金があるという状況である。また単年度においても収入より支出が多い状況であり、年々この国の借金は増え続けている状況である。これが通常の法人であれば、いつ倒産してもおかしくない状況である。

 

このため、当局としては、なんとか取れるところから財源を確保しようとの考えが顕著になってきているのが、ここ最近の富裕層への課税強化であるといえるであろう。

 

しかし、である。私はこれ以上の富裕層への課税強化は反対である。

 

もっとも基本的な控除である、基礎控除や配偶者控除まで所得により削除するのは、さすがに行き過ぎているのではないだろうか。

 

また、今回の衆議院選挙の前にも少し話題になったが、株式の譲渡益に対する課税の強化にも反対である。そもそも株式の売買においてトータルで勝っている人は個人的にはあまりいないと感じるし、いても少数派であるように思えるので、株式市場が委縮するような譲渡益に対する増税は不要であると考える。

 

また、近年贈与税と相続税に対する課税の一体化が話題になっており、今回の税制改正でもひとまず見送られ、今後も引き続き検討するとのことであるが、これ以上の相続税等に対する課税強化も不要ではないだろうか。そもそも相続税は二重課税の問題もあり、相続税がない国も世界には少なくないのである。

 

確かに、近年では貧富の差が拡大しているといわれ、親ガチャといわれるように、親の収入により子の将来が狭められているような問題には確かに不公平を感じるし、改善は必要であるとは思われるが、それと税制とは別に考えるべき問題であると思われる。

 

富裕層には能力の高い人も多いため、富裕層に対する課税の強化ではなく、彼らの能力を有効活用できる税制改正が必要だと思う。彼らからの投資を引き出すような税制改正が望ましい。たとえば法人の設立なども、能力がある人は一人で数多くの法人を設立し、利益を出して納税をしていたりするのである。

資産を守るには、結局「基本的な節税策」が堅実

では、最後になってしまったが、具体的に富裕層はどのような資産防衛策があるのであろうか?

 

率直に言えば、税理士的な立場からするとあまりないという印象である。税理士は、基本的にリスクのある方法を顧客にすすめないものである。リスクのある話に乗っかりひどい目にあっている人を見聞きすることも多いためというのもあるかもしれない。

 

たとえば、海外不動産に対する投資や、財産移転、非居住者等の海外がらみの節税策も聞くが、トラブルが起きたときに解決できない物に対して投資はすべきではないと考えるし、税金対策として海外に移住した場合でも、年数が経つとやはり日本で暮らして亡くなりたいという人が多いそうである。

 

タワマン節税や不動産投資、暗号資産に対する投資による節税なども、当事者が納得してする分には良いと思うが、私としてはリスクや相場があるものは、基本的にはおすすめすることはできない。たとえ現行の税制においては大丈夫であったとしても、税制改正で将来は状況が変わるかもしれないからである。

 

一般的な税理士はおおむね保守的であるため、そこに不満をもつ顧客に対し、経営コンサルタントなどがリスキーな節税策を顧客にすすめてきたりするという問題もあるのであるが、彼らコンサルは基本的に自分の手数料目当てであるため、あまり顧客のことを考えていないという印象である。

 

結局基本的なやり方となってしまうが、暦年贈与、教育資金の贈与、住宅資金の贈与、相続時精算課税などをうまく活用することがよいのでないだろうか。

 

相続税・贈与税一体化の話もあるが、改正になったとしても、過去に遡ってまでの改正はしないであろうと思われるので、節税策としてはいまだに有効であると考えられる。

 

 

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士、AFP

 

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