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1990年代から現在までの「無介助分娩」
1999年、無介助分娩により生まれた新生児が死亡する事故が起こりました≪注1≫。
これは、胎教と無介助分娩による自然分娩を提唱する育児文化研究所のセミナーを受講した妊婦が、自宅で医療者を呼ばずに水中出産し、新生児が生後8日目に死亡したというもので、24時間風呂のレジオネラ菌による感染が原因でした≪注1、2≫。
この事故前後にも、同じセミナーの受講者が無介助分娩を行い、この他に死亡した児(死産もしくは新生児死亡)が6人いたことが日本助産師会の調べでわかっています。
そして、日本助産師会はこの事故について、「開業助産師が巻き込まれ、児娩出後に呼ばれることがあった」と指摘しています。
その後、2010年には民放テレビ局が番組で無介助分娩を取り上げたことから、無介助分娩を問題視している日本助産師会は、メディアが無介助分娩をあおることを懸念し、無介助分娩に対する警告書を示しました≪注3≫。
原因は不明だが…2008年頃から漸増続く無介助分娩
では、統計上無介助分娩はどのように変化したのでしょうか。
1980年に0.029%まで減少していた無介助分娩は、1995年は0.026%と15年間で大きな変化は見られていません。ところが、1997年と1999年は0.031%に増加し、2000年に0.023%まで減少した後2007年までは0.023%~0.025%で推移し、2008年頃から漸増傾向となり2018年には0.036%まで増加しています。
1990年代の一時的な増加は、上述した育児文化研究所のセミナーを受講した妊婦の無介助分娩が関係していると考えられます。
その後、セミナーの受講者による無介助分娩が無くなり、いったん落ち着いた後、2008年頃から何らかの影響で漸増していると見ることができます。
「自宅・その他」での出生に特徴はあるのか
次に、無介助分娩は「自宅」、「その他」の場所で行われるため、近年の「自宅・その他」の場所での出生に特徴があるか見てみると、「自宅・その他」の場所での出生割合は、1995年の0.14%から2005年には0.24%まで増加し、2005年~2007年は0.24%で変わらず、その後減少し、2015年から2019年は0.14~0.15%で推移しています(図表1)。
さらに、自然出産を希望する女性は「助産所」での出産を選択すると考えられるため、1995年以降の「助産所」の出生割合の年次推移も調べたところ、「自宅・その他」の場所での出生と同様、1995年の0.94%から増加し、2004年の1.02%まで増加しその年をピークに減少の一途を辿り、2019年には0.49%と、15年間で2分の1以下にまで減少しています。
「プライベート出産」を選択する人が増えた理由とは
出産の歴史的変遷を辿れば、「取り上げ婆」そして「産婆」が、生活の営みの中で出産の介助にあたってきました。これは現在の助産師の大半を占める、病産院で勤務し医療の管理下で行う出産を介助する勤務助産師ではなく、おおよそ地域の中で自然出産を扱う開業助産師に相当します。開業助産師は、「助産所」もしくは、「自宅・その他」の場所で出産に立会います。
そこで、改めて、「助産所の出生の中での助産師の立会いによる出生(「助産所」での出生の立会い者は「医師」、「助産師」に分類されている)」と、「自宅・その他の場所での出生の中での助産師の立会いによる出生(〈自宅・その他〉の場所での出生の立会い者は「医師」、「助産師」、「その他」に分類されている)」を合わせ、これを「開業助産師の立会いによる出生」とみなして全出生数に占める割合の年次推移をみると、これも「助産所」の出生同様に、1995年(0.91%)から2004年(1.05%)まで増加し、その後減少の一途を辿り、2019年は0.46%まで減少しています(図表2)。
これは、ここ15年間の助産所の衰退が浮き彫りになったとも言える状況です。
かつて、産婆不在の地域で無介助分娩が行われていたことを考えると、無介助分娩の増加は開業助産師の立会いによる出生の減少、すなわち助産所の衰退と関係があるのではないかと考えられます。
プライベート出産は無介助分娩の一部です。したがって、無介助分娩の数値をプライベート出産の数として当てはめることはできません。
しかし、年々助産所が衰退し開業助産師が不在となってきたことで、開業助産師の立会いによる出産を選択することができないために、プライベート出産を選択する人が増えているのではないかと考えられます。
≪注1≫三宅はつえ、2000、「開業助産婦日記その7by三宅はつえ―助産師が求める安全な「自宅出産」「水中出産」―」、『やさしいお産をめざす情報紙REBORN〈保存版〉』REBORNⅠ:384.
≪注2≫岡本喜代子、2017、「平成の助産師革命 第5章 本会の最近20年間の発展」、『公益財団法人日本助産師会機関紙助産師』日本助産師会出版、71(2):58-66.
≪注3≫日本助産師会、2010、「警告‼専門家が立会わない無介助分娩は危険です」. http://www.midwife.or.jp/pdf/caution_withoutmw.pdf 2015年8月1日アクセス)
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市川 きみえ
助産師
清泉女学院大学大学院看護学研究科・助産学専攻科・看護学部看護学科 准教授
1984年大阪市立助産婦学院卒業。大阪市立母子センター勤務の後、医療法人正木産婦人科にて自然出産・母乳育児推進に取り組み、2011 年より助産師教育・看護師教育に携わっている。2010年立命館大学大学院応用人間科学研究科修士課程修了 修士(人間科学)。2018年奈良女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了 博士(社会科学)。2021年より現職。
著書に『いのちのむすび─愛を育む豊かな出産』(晃洋書房)がある。