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雑草の定義は大きく二つに分けることができる
雑草にもちゃんとした定義があり、その定義は大きく二つに分けられます。
一つは人の価値観に基づいた定義で、人の役に立たない植物あるいは人に何らかの損害を与える植物を雑草とみなすというものです。
米国雑草学会は雑草を「人類の活動と幸福・繁栄に対してこれに逆らったりこれを妨害したりするすべての植物」と定義しています。幸福・繁栄とはいかにもアメリカらしい強者の尊大さみたいなものを感じさせる言葉です。
例えばダイズ畑に前年に作付けしたコムギ種子が土壌に残っていて、それが春に生えてきたとします。どちらも作物ですが、農家にとっての幸福とはたくさんのダイズを収穫することですから、ダイズの収量を競合によって低下させるコムギは排除すべき植物、すなわち雑草になります。
また、この逆も然りです。農業では、作物の収量や品質といった客観的な指標があることから、どんな植物を雑草と見なすかは容易であり、その判断は一般的な社会常識から大きく逸脱することはありません。
「セイヨウアブラナ」は雑草と見なされるのか
しかし、雑草と見なすべきか否かの判断に迷う場合があります。その一つが図表1に示した河川堤防におけるアブラナ科の一年生植物のセイヨウアブラナです。
姿形がセイヨウアブラナに似ているセイヨウカラシナという植物もあります。葉の基部が茎を抱き葉柄のないのがセイヨウアブラナで、葉の基部が茎を抱かずに葉柄が明瞭なのがセイヨウカラシナです。
どちらも河川堤防ではよく見かけることのできる植物で、川の近くの畑で油料作物や野菜として栽培されていたものが堤防に逃げ出したと考えられています。
花が黄色で綺麗なため、今や早春の風物詩として多くの市民に親しまれており、セイヨウアブラナやセイヨウカラシナで町興しを企てている自治体もあるようです。
綺麗な見た目だが…セイヨウアブラナが持つ問題点
外見からは到底、悪さをする植物には思えませんが、堤防を維持管理する側からすれば、とても厄介な植物です。
図表2に示すように、セイヨウアブラナはダイコンの仲間で、その根もダイコンに似ており直根と呼ばれます。
したがって、セイヨウアブラナが堤防一面に生育している状態は何万本ものダイコンが堤防に突き刺さっていることと同じことになります。そして直根が腐ると土中に空洞が生じて、土壌が軟らかくなってしまいます。
つまりセイヨウアブラナが河川堤防に繁茂すると堤防の強度が低下して洪水時に決壊しやすくなるということです。
セイヨウアブラナやセイヨウカラシナのような広葉植物と対比されるのがシバと呼ばれる多年生のイネ科植物です。シバの根はダイコンと異なり、土壌深くまで縦横に広がる根茎とひげ根からできており、土壌を強く保持します。
このため日本の河川では、河川砂防技術基準と呼ばれる政令で堤防法面をシバで被覆することが義務付けられています。
セイヨウアブラナやセイヨウカラシナだけでなくセイタカアワダチソウやセイバンモロコシなどの雑草もシバの生育を衰退させることから、河川堤防では防除の対象になります。
雑草に分類されても、雑草と見なされない植物もある
河川堤防の他にも、どのような植物を防除の対象とすべきか判断に迷う場合があります。
それは私たちが休日に良く利用する公園の芝生です。堤防と同様に、公園にも芝が植えられており、短く斉一に刈り込まれた芝生にスミレやネジバナが生育していたとします。
どちらもシバ以外の植物ですから厳密な意味では防除の対象になりますが、スミレを防除しようとする人はあまり居ないと思います。可愛い花を咲かす上にシバの生育を大きく損ねないことから、たいていの場合、許容されることになります。
このように不特定多数の市民が利用する河川堤防や公園などでは、利用者によって植物に対する価値観が異なることから、どんな植物を防除の対象つまり雑草にするかが難しくなります。
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小笠原 勝
1956年、秋田県生まれ。1978年、宇都宮大学農学部農学科卒業。1987年、民間会社を経て宇都宮大学に奉職。日本芝草学会長、日本雑草学会評議委員等を歴任。現在、宇都宮大学雑草管理教育研究センター教授、博士(農学)。専攻は雑草学。 主な著書「在来野草による緑化ハンドブック」(朝倉書店、共著)「Soil Health and Land Use Management」(Intech、共著)「東日本大震災からの農林水産業と地域社会の復興」(養賢堂、共著)研究論文多数。