発達障害の症状は「誰にでも」当てはまることがある
発達障害というのは大きな概念ですが、具体的な疾患でいうと、先述の「自閉症スペクトラム」の他に「注意欠如多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」が該当します。
これら3疾患は重複することも稀ではなく、3疾患すべてが該当する子どももいます[図表1]。
ひとつひとつの疾患の特徴や具体的な症状の説明は良書に譲りますが、ここで述べたいことは、これらの疾患でみられる症状もしくは特性は、原則的に誰にでも当てはまることがあるということです。
たとえば注意欠陥多動性障害でみられる症状として、ケアレスミスや課題や宿題の提出忘れなどがありますが、こうした失敗を生涯経験したことがないという人はいないでしょう。
要は「ある/なし」ではなく、頻度や程度の問題なので、この症状があれば診断確定! という明確なものはありません。自閉症スペクトラムの「スペクトラム」とは「連続している」という意味で、もともとは自閉症の傾向がある人々の間での症状や特性の連続性(濃さ)を意味しています。
しかし、発達障害の症状自体が誰にでも起こりうることである以上、連続しているのは診断を受けた人々の間だけではなく、いわゆる健常者(児)と発達障害者のあいだでも明確な境界がないということになります。
児童精神科に子どもを連れて来院される保護者のなかには、子どもが小さな頃から様子が気になっていてずっと発達障害じゃないかと心配しながらも、診断を受けることがこわくて、悩みに悩んだ末に、意を決して「シロクロつけたい」と来院される方もいます。
そんな保護者に対して私がはじめに伝えることは、発達障害というのは「シロ」か「クロ」かではなく、健常から境界なく連続性をもった概念なのだということです。
したがって、仮に診断された場合でも、その子の人生を固定する重い宣告を受けたとショックを受ける必要はなく、その意味はその子の成長の過程で移ろいゆくものとして捉えてほしいと思います。
大岡 美奈子
東邦大学医療センター大橋病院/東京都大田区六郷こどもクリニック
精神科医