妻・レイさんの入居で孝介さんに変化が…
ところが、妻が入居されると孝介さんが変わりました。部屋で毎日話しかけられ、甲斐甲斐しく妻の手足を動かしたり、さすったり、自己流でリハビリをされるようになりました。
しかもレイさんの入居が転機となり、孝介さんの帰宅願望がおさまったのです。そして驚いたことに、入居時にはぼんやりとした寝たきりおばあちゃんかと思えたレイさんは、見る見る活気が出て目に力が戻ってきました。訪問リハビリの効果もてき面で歩行器を押してスタスタ歩きまわるまでに回復、加えて元々の人格を取り戻し、とってもおしゃべりになりました。
入居当時は認知症の長谷川式テストができないほどだったのに、入居後4ヶ月で17点を取るまでに回復しました(30点満点の21点がボーダーラインです)。特に家計のやりくりを思い出したらしく、銀行をはじめ関係各所に電話をしまくるほどです。
しかしながら記憶違いは著しく、それらの電話は先方をさぞかし困らせたことでしょう。レイさんに「ご主人、優しくて素敵な方ですね」と問えばキリッとした表情で、背筋を伸ばし「先生、何をおっしゃいます。宅の主人はすっかり禿げてしまって、こんなにヨボヨボになっちまいました。たいそうなもんじゃありません」とご丁寧に返されてしまったことを思い出します。夫婦でのご入居がお互いの刺激になるのは良いことばかりとも限りません。
レイさんが入居してから3ヶ月ごろ、孝介さんが自室でレイさんと口論になり、叩いてしまいました。どうやらレイさんが、自宅へ帰りたがる孝介さんを諌めたことに腹を立てたのが、直接の原因だったようです。
お二人の口論が連日のようにあったのがこの頃です。入居前の数年間、認知症のレイさんが起こした数々の金銭トラブルを、孝介さんが思い出したことが原因でした。それを詰問されたレイさんが、言い返すという喧嘩だったのです。
夫婦喧嘩が起きれば、介護士さんらが間に入り、小一時間も引き離せば仲の良い夫婦に戻ります。夫婦で時に罵り合いながらも、楽しく張りのある生活を取り戻されました。
※本記事で紹介されている事例は、プライバシーに配慮して個人が特定されないよう、名前等に変更加えています。
*****************************
鈴木 岳
医療法人社団鈴木内科医院 理事長、院長
1966年1月1日生まれ。医療法人社団鈴木内科医院理事長、院長。医学博士。
1991年より市立稚内病院を皮切りに16年の勤務医時代を経て2007年から4年半、実業とカーリングの研鑽を兼ねてスウェーデン、カロリンスカ大学消化器内科に留学、のちに就職。帰国後はスウェーデンで学んだ経験を活かし、2019年日本シニアカーリング選手権、男子日本代表。本業ではかかりつけ医として医療と介護を営み、自前の地域包括ケアシステムを構築中。スウェーデンで学んだLove and Careをモットーに、愛のある医療と介護、経営を通した地域の幸せ作りに挑戦中。
HP:「札幌 鈴木内科」