本記事では、医療法人社団鈴木内科医院の理事長・院長/サービス付き高齢者向け住宅運営者である鈴木岳氏の書籍『安らぎのある終の住処づくり』より一部を抜粋・編集し、日本とスウェーデン、2つの国の医療と介護を取り入れた「サービス付き高齢者向け住宅」づくりの過程を解説しています。
サ高住経営の現役医師が解説「夫婦で高齢者向け住宅入居」のメリット (※画像はイメージです/PIXTA)

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妻が「アルツハイマー病」になり、金銭トラブル急増

孝介さん(93歳)、レイさん(90歳)はお子さんがなく、近しい身寄りもなく、お二人暮らしのご夫婦です。まず、家計を切り盛りしていたレイさんの方からアルツハイマー病が始まり、お金のトラブルが増えました。

 

ところが、ほどなく孝介さんもATMから現金を引き出せなくなり、お二人暮らしが難しくなります。孝介さんは数々の重い心臓血管病を抱え、レイさんもリウマチ系の疾患を患い、お二人とも病院への通院を欠かせない状態だったそうです。

 

この度はレイさんの小腸に穴があき、腹膜炎の開腹手術を受けることになったのが、ご夫婦でサ高住「美しが丘」に入居されることになった契機です。お二人のご入居時にはすでに弁護士さんの成年後見人がついていました。入居にあたり、それぞれの契約を後見人さんが代理で行ってくれました。後見人制度の利用には申立人が必要です。

二人暮らし継続は困難…夫婦でサ高住に入居することに

お二人はお互いに判断力不十分となり、親族もおらず、なかなか難しいケースでした。その制度へ繋いでくれたのは孝介さんとレイさんを支援していた地域包括ケアセンターとケアマネージャーさん、病院のソーシャルワーカーさん達でした。

 

さらに、お二人の病状を鑑み、自宅での二人暮らしの継続は困難であることやレイさんの退院先には医療介護支援が必須であることなどから、医療介護が手厚い当住宅に決めてくれたのです。

 

不運にも認知症になり、生活がおぼつかなくなった際に、財産管理や諸契約、諸権利の保護をしてくれるのが成年後見人制度です。利用にあたっては地域の家庭裁判所、市区町村の高齢者福祉課等、社会福祉協議会、地域包括支援センター、成年後見を業務とするNPO、ケアマネージャー等に相談するのが入り口です。

 

お二人の場合は最終的には裁判所から札幌弁護士会へ推薦依頼が来て、弁護士会の高齢者障害者支援委員会が後見人を推薦してくれました。

なぜ自分がサ高住に入居しているのかが理解できない

初めは孝介さんがお一人で、寒さの厳しく雪深い2月に入居されました。レイさんは腹膜炎の術後回復に時間がかかり、加えて認知症による鎮静が長引き、なかなか退院できずにいたのです。

 

孝介さんは細身ですらりとした男性で、ツルッとした頭にクリクリしたかわいい目が印象的なおじいちゃんでした。タバコが好きで、入居にあたりそこが一番辛かったようです。一見、取っ付きづらく見えるのですが、話せばぶっきらぼうで言葉は少ないながらも、雑談に付き合ってくれます。

 

多くの記憶を失い、お腹と胸に残る数々の手術の跡についてすら思い出せません。幸い認知症による混乱はなく、記憶障害はあるものの、周囲の支援があれば支障なく日常生活を送れます。しかし困ったのが帰宅願望で、止めるのが大変でした。

 

そりゃ、そうですよね。だって、孝介さんにしてみれば、自分では大体の身の回りのことができるのに、なんで不自由な共同生活を強いられるのか? なぜ、自分がここに入居しているのかが理解できないわけですから。

 

何より、タバコを全く吸えないのが一番の苦痛だったようです。孝介さんに遅れて、ひと月後に妻のレイさんが入居されました。療養で眠った状態が長かったせいか自分から行動することはなく、目がとろんとして視線が定まりません。何を聞いても、曖昧な返事を小さい声で返される活気の無い状態です。