コロナ禍、妊娠中、出産後の女性の「うつ」が増加しています。助産師の市川きみえ氏の著書『私のお産 いのちのままに産む・生まれる?』より一部を抜粋し、現代社会における出産の現状について解説していきます。
コロナで妊娠中・産後のうつ患者急増…助産師が語る、現代社会の「出産」事情 (※画像はイメージです/PIXTA)

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出産選択の過去と現在~プライベート出産という選択

本稿の執筆を始めた2020年は、世界中が新型コロナウイルスという未知のウイルスとの闘いの年となりました。感染予防のために国民の生活は一変しました。「マスク」(の着用)、「三密」(を避ける)、「ソーシャルディスタンス」(を保つ)、が常識的な生活様式となりました。

 

医療崩壊の防止と経済活動の両立を図るため、「ウイズコロナ」という考えのもとに、政府は、刻々と変わる感染状況に対応すべく政策を進め、国民の生活が、医療が、国の政策に大きく左右されることを改めて思い知らされた年でもありました。

 

新型コロナウイルスの感染拡大防止対策で、医療機関では外来者が制限されることになり、お産の現場も変わりました。病院や診療所といった出産施設(以下これを「病産院」と呼びます)では、入院中の面会のみならず、家族の立会い出産が制限されました。里帰り出産も制限されています。

出産後の女性の1割程度だった「うつ」は3倍に増加

感染防止のために必要な対策とはいえ、出産は、女性にとって人生で最大ともいうべき大仕事で、家族にとっても新たな家族の誕生という一大事です。そういったときに、女性は家族から切り離され隔離された場所で子どもを産み、産後の数日間を過ごすのです。どんなに心細く、不安なことでしょう。

 

女性自身が望み、あるいは家族の事情というのではなく、出産するほとんどの女性が、決まり事として、なかば強制的にそういう状況に追いやられたことがもどかしくてなりません。これまで妊娠中、出産後の女性の1割程度だった「うつ」は3倍に増え、3割が「うつ」のおそれがあると報告されています。

 

親の精神的健康は育児に影響しますので、育ちゆく子どもたちの発育・発達が気になります。新型コロナウイルスの影響で医療崩壊が叫ばれていますが、感染者を受け入れるため、あるいは院内感染の発生により、分娩の取り扱いを休止した病院が数々あります。

 

そのことで、妊婦は病院を追い出され、新たに産み場所を探さなければならない事態となったのです。助産師は看護師資格を持ちます。総合病院などでは産科病棟で助産師業務を行っていた助産師が、看護師として感染者の対応にあたることを余儀なくされたということも聞いています。助産師は妊産婦に寄り添う機会が奪われているのです。

 

見えないところでどんどんと出産環境は大きく変化しています。近年、分娩の取り扱いを止める病院が相次いでいますが、コロナ禍で加速するかもしれません。

ほとんどの女性が医療の管理のもと「病産院」で出産

現在、わが国ではほとんどの女性が医療の管理のもと、病産院で出産しています。厚生労働省の人口動態統計調査では、出生場所は「病院」、「診療所」、「助産所」、「自宅」、「その他」に分類されています。

 

「病院」、「診療所」は医師が医業を行う場所で、「病院」は20床以上の病床を有し、「診療所」は19床以下の病床を有するもしくは病床を持たない医療施設、そして「助産所」は助産師が助産師業務を行う場所です。

 

なお、「助産所」は「○助産院」という名称で開設されているところが多く、一般的には”助産院”と呼ばれていますが、本稿では「助産所」で統一します。