コロナ禍、妊娠中、出産後の女性の「うつ」が増加しています。助産師の市川きみえ氏の著書『私のお産 いのちのままに産む・生まれる?』より一部を抜粋し、現代社会における出産の現状について解説していきます。
コロナで妊娠中・産後のうつ患者急増…助産師が語る、現代社会の「出産」事情 (※画像はイメージです/PIXTA)

年間出生数100万人未満…日本で加速する「少子化」

日本の少子化は加速しています。出生数は、2016年に初めて100万人を割り97万6978人となり、2019年は86万5239人でした。これから親になっていく世代の人たちが生まれた1995年の出生数118万7064人と比較すると、2019年は3割近くも減少しています。

 

さらに、2020年は新型コロナウイルスによる産み控えが懸念されていました。厚生労働省は、2020年の1月から10月までの妊娠届出数について、2019年の同期間の数と比較し、5.1%減少していることを報告しています。

 

少子化にはさまざまな原因が考えられ、これまでいろいろな政策が打ち出されてきました。しかし今やこのような事態となっています。

年々「帝王切開」や「無痛分娩」が増加している

2019年の出生場所を見ると、出生数86万5239人の内、「病院」47万6240人(55.0%)、「診療所」38万3472人(44.3%)と、病産院で99.3%の出産が行われています。正常産のみを扱い医療介入の行われない「助産所」での出生は、4238人(0.49%)。そして「自宅」での出生は976人(0.11%)、「その他」の場所での出生は313人(0.04%)と、施設外(「自宅・その他」)での出生は、合わせて1289人(0.15%)でした(図表1)。

 

[図表]全国の出生場所および無介助分娩の動向

 

医療の介入する出産として代表的な帝王切開は、日本では増加しています。帝王切開率は、1990年は病院11.2%、診療所8.3%だったところが、2017年には病院25.8%、診療所14.0%となっており、現在は全体でおよそ20%が帝王切開による出産です。

 

 

また、出産方法の選択のひとつとして、薬剤によって陣痛の痛みを緩和して出産する「無痛分娩」が注目され、これも、2007年2.6%(推計)だったところが、2014年4.6%、2015年5.5%、2016年6.1%と年々増加しています。

 

そして、不妊治療も進み、2018年に体外受精による妊娠で生まれた子どもは5万6979人と、約15人に1人が体外受精による出生です。

女学生「病院以外に産めるところがあるのですか?」

一方で、2019年に病産院以外の医療の管理下にない場所、すなわち「助産所」と「自宅・その他」の場所で出産した女性は、全国でたった5527人(0.64%)でした。2年ほど前に、女子大の1~2年生を対象(看護学科のみではない)としたある授業で、出産するならどこで産みたいと思うかと質問したことがあります。

 

ほとんどの学生が、「病院以外に産めるところがあるのですか?」という反応でした。今や、これから出産年齢を迎える若い女性たちには、「助産所」はその存在を知られていないようですし、「自宅」で産むなど全く考えられないことのようでした。

 

存在を知らなければ選択の余地はありません。なお、コロナ禍で自由に立会い者を選んで出産することが可能なのは、こういった場所での出産です。コロナ禍による出産環境の変化は、今後の日本社会にどのような影響がおよんでいくのでしょうか。

 

 

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市川 きみえ

助産師

清泉女学院大学大学院看護学研究科・助産学専攻科・看護学部看護学科 准教授

 

1984年大阪市立助産婦学院卒業。大阪市立母子センター勤務の後、医療法人正木産婦人科にて自然出産・母乳育児推進に取り組み、2011 年より助産師教育・看護師教育に携わっている。2010年立命館大学大学院応用人間科学研究科修士課程修了 修士(人間科学)。2018年奈良女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了 博士(社会科学)。2021年より現職。

著書に『いのちのむすび─愛を育む豊かな出産』(晃洋書房)がある。