2020年の非正規雇用は10年前の2.5倍となりました。雇用問題から派生する中高年のひきこもりという深刻な問題は、もはや他人事ではありません。ここではひきこもりの方たちの経済状態と、社会福祉体制の実態について、臨床心理士の桝田智彦氏が解説していきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
親の年金で暮らす「中高年のひきこもり」生活保護を受け取ろうにも…“あまりにつらい”実態 ※画像はイメージです/PIXTA

国民年金は平均「月5万5000円」生活保護を受け取ろうにも…

この2つの例に限らず、もし、親が国民年金の保険料を払いつづけてくれていて、「満額」受け取れるとしても、月に6万5000円弱でしかありません。

 

ちなみに、国民年金の平均受給額は2018年で月5万5000円です。これでは生活はギリギリでしょう。親の年金がなくなれば、とても暮らしていけないわけです。そういった人たちの多くは餓死の不安におびえながら、どこまで生きられるのだろうと、そこまで思っているかもしれません。

 

ところが、ひきこもりの方たちをこのような困窮状態から救いだせる社会資源としては、今のところ障害年金と生活保護の2つしかないのです。

 

まず、障害年金は統合失調症やうつ病、双極性障害などといった精神疾患や、発達障害があれば使えます。ということは、これらの精神疾患や発達障害があるひきこもりの方なら、障害年金がもらえる可能性があるのです。

 

ただし、そのためには病院へ行ってうつ病ならうつ病と診断されなくてはなりません。ギリギリの生活をおくっているなかで、病院へ行く交通費や病院代は大きな負担になります。何を申しあげたいかというと、「所持金があと3000円しかないのに病院へ行けますか」ということです。

 

そもそも、情緒的な接触ができないためにひきこもっている人が、病院へ行って、「眠れず、死にたい気持ちなんです」と医師に訴えてみようという考えにいたるでしょうか。かなりむずかしいのではないかと思います。

 

障害年金を手にする機会があっても、それを逃してしまっているひきこもりの人たちは少なくないと思われます。

 

では、中高年のひきこもりの方が受けられるかもしれないもうひとつの社会資源、生活保護はどうでしょうか。

 

まったくもってひどい状況です。支援の現場で当事者の方やその親御さんと話すと、生活保護の受給者を増やさないために、各自治体がやっきになっているように感じます。

 

生活困窮者が生活保護を申請しようとやってくると、窓口で難癖をつけて追い返すこともあるようです。いわゆる「水際作戦」というものです。