2020年の非正規雇用は10年前の2.5倍となりました。雇用問題から派生する中高年のひきこもりという深刻な問題は、もはや他人事ではありません。ここでは、「中高年ひきこもり」と「雇用問題」の関係について、臨床心理士の桝田智彦氏が解説していきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「最低賃金が時給1500円になったら何をしたいですか?」…衝撃の答え ※画像はイメージです/PIXTA

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「中高年ひきこもり」発端は、バブルの崩壊

雇用や貧困などの政治・経済問題が、中高年ひきこもりに与える影響について考えていきましょう。

 

この視座に立ったとき、中高年のひきこもりが増加し、さらに、ひきこもりが長期化するようになった、一番の要因は「雇用環境の悪化にある」と思っています。つまり、雇用環境の悪化によって、一生懸命に働けば、ふつうの暮らしができる、そのような「まともな働き口」がなかなかみつからないのです。

 

とくに中高年ではその傾向が強くて、あるのは低賃金で、不安定な非正規や、パートやアルバイトがほとんどで、運よく正社員として採用されても、そこがブラック企業だったりするわけです。

 

そのため、いったん解雇されたり、退職したりすれば、再チャレンジの道が閉ざされてしまいがちで、このことがひきこもる人を増やし、また、ひきこもりからの脱出を阻むことになっているように感じます。

 

雇用環境がこのような厳しいものになってしまったのは、終身雇用制の崩壊にあると考えています。では、そもそもなぜ終身雇用が崩壊し、そして、その結果、なぜ雇用環境が悪化してしまったのでしょうか──。

 

敗戦後の日本社会を支えてきたもののひとつが、終身雇用制だと言えます。終身雇用制のもと、人々はいったん就職したら、会社がつぶれない限り、定年まで勤めつづけられました。そして、多くの場合、終身雇用制は年功序列とセットになっていたので、勤務年数に応じて給料も上がっていきました。

 

働く多くの人が、突然解雇される不安もなく、安心して働けて、給料も年々上がるという、今からすると夢のような待遇のもと、日本は「一億総中流」と言われる、格差の少ない豊かな社会を実現させたのでした。

 

ところが、バブル経済が破綻したあと、終身雇用制は立ちゆかなくなります。バブルが崩壊したのが1991年。1997年には長期不況に突入します。長びく不況のなか、グローバル化の激しい国際競争にさらされることにもなった日本の企業は、しだいに終身雇用制を維持するための体力を失っていきます。

 

そして、21世紀に入ると、多くの企業が生き残りをかけて、次々に解雇や早期退社などリストラを断行し、日本の終身雇用制は終焉へと向かいはじめたのです。