都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにともなう引っ越しでコミュニティは崩壊し、高齢住民たちの生活はガラリと変えられてきました。隣近所の顔がわからなくなった住民たちにとって、「孤独死」という問題は非常に大きなものとなっています。同団地住民を長く取材してきた、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「エレベーターで挨拶もしない」団地の住民たちに何が起きたのか? (※写真はイメージです/PIXTA)

「エレベーターで挨拶もしない」無関心な態度の理由

引っ越してきて、挨拶代わりのように、自治会の活動に参加することができない事情を言われることや、「これ以上高齢化すると、自治会は維持できない」という発言から、今後の団地暮らしはまた新たな局面を迎えることが予想される。

 

桐ヶ丘団地の住民たちは「数日間誰とも話せなかった」「一日中、話し相手がいなくて寂しい」と語りながらも、「エレベーターで挨拶もしない」とも話す。

 

2015年8月のインタビューで、ある住民は「挨拶しても返事をしない人が結構多い。お互いに馴染もうとしない。5、6回挨拶すると、やっと返事してくれる。付き合いが苦手な人が多い。特に一人暮らしの男の人にその傾向が強い」と語った。

 

それは、現代の集合住宅に共通する「無関心」の態度であり、「関わることのない状態」を維持することで、煩わしさのない自分の私的領域を守ろうとする意志の表現でもある。

 

しかし一方では、孤独がもたらした団地のさまざまな出来事を通じて、住民たちは、「最後は自分で始末できないものだ」と、他人の存在に新たな意味を与えていた。

 

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1ヵ月前に、桐ヶ丘団地の中でご夫婦が亡くなったの。旦那さんが病気で、奥さんが介護していたが、奥さんが亡くなってしまい、旦那さんも亡くなった事件があった。私たちの号棟では、お隣りさんが救急車を呼んでくれて、病院に運ばれて、無事に帰ってきた。

 

まずは自分で、次に助けてもらうのはご近所。隣り付き合いは大事なことです。何かある時お世話になるから。最後は自分で始末できないものですね。(2015年8月、小庭さんへのインタビュー)

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2017年の夏には、住民たちから、夫婦が死亡した状態で発見された話を聞いた。また、介護ヘルパーがベルを押しても答えがなくて確認したら、居住者が死亡していたともいう。

 

誰かが倒れてから発見され、病院に運ばれたこともあった。日常的に誰かと交流していても、緊急時に一人でいるのはありうることである。