都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにともなう引っ越しでコミュニティは崩壊し、高齢住民たちの生活はガラリと変えられてきました。隣近所の顔がわからなくなった住民たちにとって、「孤独死」という問題は非常に大きなものとなっています。都営団地の実態を、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「警察を呼んで入ってみたら」…都営団地と独居老人たちの悲惨な実態 (※写真はイメージです/PIXTA)

「孤独死」「孤立死」「独居死」の異なるニュアンス

「孤独死」に関する統一した定義があるわけではない。「孤立死」や「独居死」などの言葉も使用されている。

 

特に近年、厚生労働省をはじめ行政は「孤立死」を用いる傾向にあるが、どのような状態を「孤立」と見なすのか、家族や近隣・友人などとの人的交流が乏しいという意味で使われる場合が多いものの、行政サービスなどからの支援のない状況を指すこともあり、曖昧である。

 

福祉行政で「孤立死」の方が使われるのは、「孤独(loneliness)」という感情が、社会的「孤立(isolation)」という状態と比例しないことを明らかにした、ピーター・タウンゼント[1974]の研究の潮流に準拠しているからだろう。

 

ここでは、住民との会話でもよく使用され、おおよその共通認識となっている「自宅で誰にも看取られずに亡くなり、その死が数日後に発見され、自殺や犯罪性を除く遺体」という死亡の仕方を、結城康博[2014:12]に倣って「孤独死」と呼んだ。

 

 

※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。

 

 

参考文献

​ピーター・タウンゼント 1974 『居宅老人の生活と親族網――戦後東ロンドンにおける実証的研究』 山室周平(監訳) 垣内出版 

結城康博 2014 『孤独死のリアル』 講談社

 


朴承賢

啓明大学国際地域学部日本学専攻助教授