都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにともなう引っ越しでコミュニティは崩壊し、高齢住民たちの生活はガラリと変えられてきました。隣近所の顔がわからなくなった住民たちにとって、「孤独死」という問題は非常に大きなものとなっています。都営団地の実態を、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「警察を呼んで入ってみたら」…都営団地と独居老人たちの悲惨な実態 (※写真はイメージです/PIXTA)

「お互いに知らないから気づかない」孤独死の不安

山崎さんは、「本当に不思議なんだけど、こんな大きな建物なのに、廊下で何日間も誰とも出会うことがない。いるかどうかわからない隣人が増えている」と話した。このような状況では、「孤独死の不安」は当然なことだろう。

 

新築のある号棟には2011年11月現在、200世帯に376人の住民が住んでおり、その中で65歳以上の高齢住民は200人ほどである。当時のインタビューで自治会長は、前年にここでは3件の孤独死が発生したと述べた。

 

「お互いに知らないから、臭うまでわからなかった」と、ある住民は自分が経験した孤独死を回想した。自治会長は「お1人の男性が配達物を取らなくて、隣りの人が私のところに来た。警察を呼んで入ってみたら、そうだった。冬で閉めきっていたので、臭いが全然なかった。孤独な人が多い」とつらい思い出を話した。

 

それから1年後の2012年11月のインタビューでは、自治会長は「この棟では今年7人がいなくなった。皆1人暮らしだったが、病院で死亡した」と、「今年は孤独死がなくて本当によかった」と述べた。

 

別の自治会長への2012年11月のインタビューでは、過去3年間でその自治会内では4件の孤独死が発生したと語った。特に、入居してから2か月足らずの頃のある住民の孤独死に関しては、家族と連絡がとれず、区の福祉課が遺体を引き受けたと話した。

 

ある住民へのインタビューでは、自分たちが経験した孤独死を話してくれた。「今年の春にも孤独死があった」と言って、会社に勤めていた若い人の孤独死を思い出した。また、引っ越したばかりのある日、隣りの住民がお風呂で孤独死したと語った。

 

ある住民は、「どうもおかしくて警察の立ち会いで業者に玄関ドアを開けてもらったが不在で、調べたら周囲に知らせずに入院していたケースもあった」と述べた。孤独死の可能性が疑われる場合、しかも家族に連絡がとれない時は、このように自治会長と警察の立ち会いでドアを開けることもあった。