厳しい自然がつくった風景美…トゥクトヤクトゥクへ
トゥクトヤクトゥクへの道は、ピール川とマッケンジー川が合流するあたりほどひどくはなかった※。しかし車を降りると、靴は土に沈み、厚いクッションの上を歩いているようだった。
※ 実体をなくしかけているような道だった。車がには泥がへばりつき、赤系の車体が茶色く変色してしまうほどだった。
風景は寂しかった。膝丈を超える木は少なく、枯れることを待つだけのような草が零度近い風に揺れていた。ときどき壊れたスノーモービルが道の脇に放置されている。道路完成から2年しかたっていないのだが、どこかささくれ立った空気に支配されていた。
30年前、この道はなかった。トゥクトヤクトゥクへは飛行機を使った。小型のプロペラ機がアクラービクとトゥクトヤクトゥクをまわっていた。冬の間は、スノーモービルで簡単に行けるのだが、凍土が解けると、飛行機しか足がなくなってしまうのだという。
乗ったのは10人乗りの双発プロペラ機だった。北極海からの風にあおられるように飛びたった。眼下には池と草原が広がり、ところどころに雪も残っていた。上空から眺めると、気もちのよさそうな風景にも映ったが、地上に降りると、荒涼とした世界が広がっていたのかもしれなかった。
しかし今回は車だ。イヌビクから1時間ほど走っただろうか。前方に小山が見えてきた。ピンゴと呼ばれる凍土のドームだった。高さは50メートルほどだろうか。
この小山ができる過程を図示した看板があった。まず永久凍土の一部が解ける。水が地下に溜まり、それが再び凍結すると、表面の土を押しあげ、ドーム状の山をつくるのだという。
しばらく進むと、「トゥクトヤクトゥクにようこそ」という看板が立てられていた。この村は別名、ピンゴの村といわれると書かれていた。小山が点在する地形は背のびをしたくなる風景美だったが、この山は氷がつくった山だと思うと、厳しい自然に足が竦みそうになる。それを村のシンボルにするのも……という気にもなる。まあ、それ以外、なにもない、ということかもしれないが。
下川 裕治
旅行作家