グローバル人材を対象としたキャリアコンサルティングの仕事に携わる中山てつや氏の著書『なぜ職場では理不尽なことが起こるのか?』より一部を抜粋・再編集し、職場の人間関係にまつわる問題について解説する。
プロジェクト進行中に…期待のエース社員「突然の人事異動」のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「勝ち馬」に乗っても安心してはいけない理由は…

相性が良いことを、「馬が合う」とも言います。性格や気が合う、意気投合する、といった意味合いで使われますが、もともとは、乗馬に由来する言葉です。乗馬では、馬と乗り手の息が合わないとうまくいかないので、馬と乗り手の呼吸がぴったり合っている状態を、「馬が合う」と表現するようになったようです(参考:精選版日本国語大辞典)。

 

人間関係が良好で、前向きな印象を与える時によく使われる、便利な言葉でもあります。同じ「馬」を用いた表現で、「勝ち馬に乗る」という言葉もよく耳にします。有利なほうにつく、勝ったほうに味方して便乗する、力のある人の側について恩恵を受ける、などの意味で使われます(出所:デジタル大辞泉)。

 

こちらは、どちらかというと、あまり好ましくない時に用いるケースもあり、決して良い響きとまではいきませんが、「処世術」としては効率的で、手っ取り早く、効果てきめんな手段でもあります。

 

でも、実際に実行に移す時には、それなりの「覚悟」が必要となります。

 

以前勤めていた会社で、役員と食事をしていた時の話です。お互いに転職してきた口ですので、前の会社の話題にも触れることになりました。役員は、前の会社でもかなり上の職責まで上り詰めていましたが、所属していた派閥の長が派閥争いに負けた結果、一族郎党、皆外に出る羽目になったそうです。

 

この話題になると、役員は、それまでとは少し異なる、微妙に歪んだ、自嘲的な表情に変わりました。おそらく、まだそう遠くない、当時の生き残りをかけた生々しい社内抗争が、脳裏をよぎったのではないでしょうか。

組織に身を置く人は、常日頃の「自己防衛」が重要

馬が合えば相性良く、「勝ち馬(とおぼしきもの)」に乗ることができます。むしろ、乗せてもらっているという表現のほうが適切かもしれません。しばらくは気持ち良い、爽快な乗馬を満喫することになりますが、勝ち馬が、ゴール目前で「失速」することもあります。

 

もちろん、めでたくゴールインすることもあるでしょう。でも、その馬が損得勘定に長けた、とんでもない「暴れ馬」だったりすると、ゴールした瞬間に、振り落とされてしまいます。

 

誰の側にもつかない、という選択肢もありますので、どうするかは本人次第です。しかし、勝ち馬に乗ると決めた時は、危険を察知したら降りる、あるいは、危ない目に遭っても大怪我を負わないよう、「危機管理」を怠らないようにしたほうが良いでしょう。

 

組織に身を置く者として、ある意味、常日頃の「自己防衛策」でもあります。

 

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中山 てつや

1956年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。日系製造メーカー及び外資系IT企業を経て、主にグローバル人材を対象としたキャリアコンサルティングの仕事に携わる。