都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにより高齢の住民たちは「住みにくさ」を感じており、建設事務所側の意図した「便利さ」は残念ながら伝わっていないようです。住民へのインタビューとともに、その実態を、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
都営団地「1DKはひどい」建替えを嘆く住民…設計担当者とのすれ違い (撮影年月:2013年11月 撮影者:朴承賢)

建替え前後を「写真で見比べる」…建設担当者にとって予想外だった問題

[写真2]と[写真3]は、桐ヶ丘団地建替え前の号棟と新築号棟の典型的なフロアの様子である。建替え前は玄関が平面的に並んでいるが、新築号棟は玄関が引っ込んでいる。

 

(2013年11月撮影)
[写真2]建替え前の号棟の玄関の並び方 (2013年11月撮影)

 

(2013年11月撮影)
[写真3]新築号棟の玄関の並び方 (2013年11月撮影)

 

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玄関が引っ込んでいるので、顔を合わすことができない。今は隣りがドアを開けてもわからないから。以前はお互いにドア開けると挨拶できたが、今はあれが難しい。玄関で声かけられないから。静かすぎてお互いにわからない。横並びは交流ができやすい。今の建て方は本当に交流がしにくいよね。つくり方の問題。人が入れるスペースだから、誰かが隠れていてもわからなくて怖い。最初は本当に怖かった。引っ込んでいるから車いすもギリギリで大変。そういうことまで考えていないようだ。(2012年11月、山田さんと高野さんへのインタビュー)

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引っ込んでいる玄関に対する住民の不満を建設事務所の関係者に伝えると、そのような問題があるとは想像もできなかったと驚いた。

 

そして、引っ込んでいる玄関は、お互いに出入りする時に体がぶつかったりする不具合がない動線を導くよう配慮したものであり、さらには、車いす2台がすれ違うことができる幅を確保するためのものであると説明した。つまり、他の車いすが通過するのを引っ込んだ玄関で待つことができる設計であるのだ。

 

担当者は、玄関を深くせずに、玄関前の幅を広げたりする工夫もしているが、そうすると別のスペースを使ってしまい、家が狭くなる恐れがあるので、このような工夫を施しているとも話した。

 

このことから、使う側の便利のためという意図が住民たちには伝わっていないことがわかった。フロアで自由に動けるように配慮した計画が、住民たちにはむしろ不安感や孤独感を与えているのだ。