親の願望に当てはまらず「すごくおかしな絵なんです」
長所や短所が、実は「個性」と近い言葉だということがわかりました。しかし、それでも子どもの長所がなかなか見つからないのはなぜでしょう?
それは、子どもの個性が「親の望む」範疇に入らないからかもしれません。
つまり子どもの個性を長所と認めないということです。
多くのママが「子どもの長所と認めたい」のは、
・勉強ができる
・整理整頓ができる
・読書が好き
・ピアノがうまい
・身のまわりのことを自分でできる……などなど。
まずは主要5教科に直結する学力面です。そして音楽や体育、図工などその他の修学科目に紐づけできる才能やスキルも、ママが長所としたい区分にあります。
さらに、生活面での「あいさつ」「片づけ」「時間を守る」など、「しつけ」に関する社会人としての一般的な素養。これは、育てやすい子、よい子というイメージとリンクする要素です。
たしかにこれらの「個性」はわかりやすい長所です。しかし本当にそれだけでしょうか?
先日、小学2年の男子生徒のお母さんと面談したときのことです。
「うちの子どもが、母の日に私の似顔絵を描いてプレゼントしてくれたんです。でも、それがすごくおかしな絵なんです。顔はフツーに描いてありましたが、身体には心臓や胃、腸なんかの内臓まで、びっしり描き込んであるんです。びっくりしました。グロテスクですし、こんな絵を描くうちの子どもって、大丈夫でしょうか?」
聞けば、お子さんは最近買い与えた人体図鑑にはまっているらしく、生き物の「内臓」がトレンドになっているようです。人間の身体構造、内臓器官の形や役割について興味津々なのです。そんな彼が人間を描くとなれば、少しでも「ホンモノらしく」描きたかったに違いありません。
「人の絵を描くときに、内臓まで描く子どもっていますか? 先生、これって、母の日のプレゼントなんですよ」
お母さんにしてみれば、にっこり笑顔の似顔絵が見たかったのかもしれません。
そこで、スマホで撮ったその絵を見せてもらいました。クレヨンで色とりどりに塗られたその作品は、臓器それぞれの輪郭がしっかりと力強い線でかたどられた、たくましくてまぶしい作品でした。おまけにその絵の隅っこのほうには「おかあさん、ないぞうだいじにしてね」と、かわいいメッセージまで添えてあります。
私は心のなかで「いいぞいいぞ、もっとやれ!」と、大きなエールを送っていました。
お母さんは「グロテスクな似顔絵で心配」という評価でしたが、第三者である私には「ユニークで、きらきら輝く心温まる作品」と映ったわけです。これは、「ホンモノらしく絵を描ける」という彼の長所のひとつではないでしょうか?
このケースは「母親が望むものばかりが子どもの長所ではない」という好例です。
石田 勝紀
教育評論家