年収1000万円、20年間仕送りを続けていた男性がひきこもりに
まずご紹介するのが、2019年7月5日、NHKで放送されたドキュメンタリー、『母が死んだ 言えなかった一ヶ月』での男性です。彼を仮にこの本ではAさんとしましょう。50代だったAさんは、同居していた80代の母親が亡くなり、その遺体と1ヵ月以上も共に暮らしたのち、逮捕されました……。
【事例1──職を失ってひきこもってしまった1000万円プレイヤー】
Aさんは外資系企業のエンジニアとして働き、年収は1000万円超え。華麗なる1000万円プレイヤーで、関東地方にマンションを購入し、独り暮らしをしていました。
家庭環境が複雑で、本人いわく「父親がロクデナシで、子どもの頃から貧乏だった」。母親がパートをして一家の生活を支え、彼が大学を卒業できたのも母親のおかげでした。自分が稼げるようになってからは、苦労をかけた母親へ20年ものあいだ、仕送りを続けてきました。
ところが、今から6年前にAさんは突如、会社を解雇されます。解雇から1年後、再就職先を探しはじめた彼のまえに「50歳の壁」が立ちはだかります。再就職先は見つからず、気がつけば不採用の数は数十社にのぼっていました。
仕事は見つからず、貯えは減りつづけ、焦りと不安は募るばかり。唯一、中国企業の採用がありましたが、老齢の母親を置いてはいけず辞退したそうです。そのうち、友人との連絡も途絶えがちになっていきます。
いつしか気力を失い、就職を諦めてしまい、そして、お金を使わないようにと、家にひきこもる時間がしだいに長くなっていったというのです……。
自宅にひきこもっていたAさんは、そんな姿を見かねた母親に促されて、東北の実家に帰ります。収入は母親の月8万5000円の年金のみ。年金受給日のまえの数日間は、ふたりして米と味噌だけで飢えをしのいだといいます。
そして、ある日、気がついたら、母親が横になったまま動かなくなっていたのです。
息子であるAさんは現実を受け入れることができないまま、茫然とするばかりだったそうです。手元に残っていた現金は5万円ほどで、母の葬儀を出したら、自分が餓死するかもしれません。冷静に考えられなくなっていたAさんは死亡届を出すことなく、冒頭で述べたように、母親の遺体と共に1ヵ月以上を過ごしたというのです。
その後、所有していたマンションが売却できたことで、葬儀費用のめどがたつと、Aさんはみずから警察に母親の死を届け、逮捕されて、裁判で執行猶予の有罪判決を受けました。
番組のインタビューに対してAさんは、
「……これまで親孝行してきたつもりですが、最後の最後にこんなことになってしまったことが悔しいですし、自分が情けないです」と話していました。
非正規やアルバイトの方たちだけではなく、正社員の、それも1000万円プレイヤーであっても、今の世の中、いつなんどき解雇されるかわかりません。そして、いったん解雇されたら、とくに中高年の場合には、再就職先がなかなかみつけられないのが現状なのです。
Aさんのように数十社受けても不採用ばかりとなれば、よほど強靭な精神力の持ち主でない限りは、やがて傷つき、自信を失い、身も心も疲弊して、外へ出ていく気力が失せたとしても不思議ではないでしょう。
次に、私自身がカウンセリングさせていただいている40歳のUさんの事例を見ていきましょう。