生活困窮者の相談に乗り、生活保護の申請を手助け、住まいを紹介するNPO法人・生活支援機構ALL。「困っている人は誰でも、門を叩いてほしい」と代表理事の坂本慎治氏は語る。 ※本連載では書籍『大阪に来たらええやん!西成のNPO法人代表が語る生活困窮者のリアル』(信長出版)より一部を抜粋・編集し、日本の悲惨な実態に迫っていく。
遊び呆け「社長から無一文へ」…生活保護の審査も通らず、見た地獄 (※画像はイメージです/PIXTA)

思いつめた困窮者が代表とともに向かった先は…

「そんなことをするケースワーカーなんているの?」と聞くと、彼は「いますよ」と即答します。

 

私が、「彼の言い分を一方的に聞いただけ」としながらも、あえてここにそれを記すのは、私ももともと、その役所は対応がひどいと知っていたからです。ほかの相談者からも「ボロカス言われて、それでおしまいだった」という話は聞いていました。

 

そのため、妙に納得のいく話だったのです。

 

彼は「死ぬんなら、あの役所の目の前で自殺する。あいつらに見せつけてやりたいんです」と、自殺の具体的な計画を話します。

 

「わかった、わかった。いったん転居しよう。違う自治体で生活保護を申請しよう」。私はたしなめ、充実した支援をしてくれる自治体への引っ越しを手伝いました。

 

自治体によって、こうも対応が違うものか。いろいろな人の生活保護受給を支援していると、本当にそう感じます。

 

彼が新しく転居した先の自治体へ生活保護の申請をしに行くと、窓口の人は彼の顔色を見るなり、まず「大丈夫ですか? すぐに病院に行けるように手配します」と声をかけてくれます。

 

「彼にはお金がない。食糧支援は我々のほうでできるけど、金銭的支援ができない」。そう伝えると、役所の人は地域の互助会システムでお金を借りられると案内してくれました。

 

そこへ相談にいくと、年配の女性がまた、「えー。ものすごい顔色じゃない。大丈夫?」と、心配しながらも温かく迎えてくれます。「地域でね、みんなから数百円ずつ集めて、困った人に貸せるシステムをつくっているのよ。だから1万円だけだけど、あなたに貸せるから」と、新入りの住人にポンと1万円を貸してくれました。

 

かつて事業を立ち上げて軌道に乗せ、栄華を誇って遊びまくり、有頂天になっていたがために失脚した男は、地獄を見た後、新しく助けを求めた地で人の優しさに触れ、わんわんと泣き出しました。

 

役所は、一刻も早く医療を使えるよう態勢を整えてくれ、彼は健康面でも救われました。

 

ちなみに、「お金がない」「住所がない」状態でも、医療は受けられます。実際に私たちもよく病院から「救急車で運ばれてきた患者さんが、お金も住所もない。どうしましょう」という相談をよく受けます。

 

その場合、私たちがその人を迎えにいって、住居を決めて、生活保護を申請してもらいます。

 

また、入院中でも、生活保護の申請はできます。

 

さて、彼は今では、犬とふたり、静かに、穏やかに暮らしています。

 

「自治体によって、対応がまるで違う」。これは大きな問題点ですが、逆に言えば、ある自治体でボロクソな扱いを受けたところで、気にすることはありません。我々に相談していただければ、生活困窮者への支援が充実している自治体を案内することができます。

 

 

坂本 慎治
NPO法人生活支援機構ALL 代表理事
大阪居住支援ネットワーク協議会 代表理事
株式会社ロキ 代表取締役

 

※本連載で紹介している事例はすべて、個人が特定されないよう変更されており、名前は仮名となっています。