「空箱」を使った上場への是非が問われている
2021年4月9日の日経新聞で、新しく東証の社長に就任する山道氏の談話が発表されていました。
2022年には既存の4市場構造から3市場体制へ移行するにあたり、企業のESGへの取り組みを一層底上げする考えを表明した他、IPO市場についても述べています。具体的には、米国での「空箱」を使ったIPOが記録的な活況となっており、東証での導入も「最近のマーケット環境に基づきながら真剣な検討を検討するべきだ。」とコメントしました。
一方で、「空箱」を使った上場は慎重な議論を行うべきだ、との意見も表明し、アジアではシンガポール、インドネシアで早々にSPAC(スパック)が導入されることが報道されています。そのため、国際的な市場間の競争において、東証がどういう取組みをしていくのかが注目されるところです。
米国では、SPACは制度として1980年代から存在していましたが、担当市場はアメリカン取引所(ピッツバーグ)で、ニューヨークそしてNASDAQという具合に主な上場市場が変遷しています。
また、日経新聞は4月11日の1面で、SPACについて、巨大ファミリーオフイスの不透明さ、仮想通貨等とともに市場が投機的になっている一つの事例として挙げていました。
さて、メディアも注目している「空箱」、SPACですが、その特徴と投資家にとってのメリット、デメリットを整理しておきましょう。
SPACは、企業の買収だけを目的としている上場会社
◆SPACとは
一株当たりUSD10.0、24ヵ月の期限付きで発行され、企業の買収だけを目的とした「会社」です。定められた期限内に買収できない場合は、「USD10.0+金利-諸コスト(会社解散手続きのリーガル費用等)」の金額がSPACの保有者に返還されます。
◆スパックの発行件数、金額
2021年は市場最高水準で推移しています。
◆SPACのIPO規模
これまではせいぜいUSD20億未満のものが最大で、USD2~3億規模のものが大層を占めています。しかし、ブームに乗って徐々に大型化しつつあるという印象があります。
◆SPACの資金使途
「買収」に限られていますが、主に中小規模で先端的な技術やノウハウを有し、高い成長率を目標とする企業が大半です。たとえば、フィンテック、メドテック、ヘルスケアテック等の、何々テックと呼ばれる事業を営んでいる会社です。
◆スポンサー、マネジメント
スポンサーは、会社としてのスパックの取締役であることがほとんどですが、そうでない場合もあります。スポーツ選手等のセレブに着任してもらう場合には、投資家への宣伝効果とともに、その業界に関する知見や人的ネットワークを得たいからです。
多くの場合、SPACが買収を検討している業界の大企業のCEO経験者など、その道で功なり名遂げた人々が大半で、そのようなコンサルティングの対価としてスポンサー全員分でSPACの株式20%に相当するワラントを付与されているのが慣例です(行使価格は、大体USD11.5程度)。
首尾よく長期の成長率が高い会社を見つけることができ、交渉の上、友好的買収に成功した場合には、そのワラントが数十倍になることもあり得る話です。また、買収は株式交換で行い、負債は被買収会社の資産を担保に借入を起こすので、レバレッジを利かせることもSPACの経営者の力量次第です。
タダ同然で手にしたワラントがIPOを通して巨額の報酬に化けるので、釈然としない人もいます。このようなケースや、買収完了後に不正会計等の不祥事がメディアで報道されると、業界全体が批判にさらされ、小規模企業の株式ファイナンス活動が事実上できなくなる恐れがあります。