医者の年収はいくら?年齢別に大公開
●一般的な給与所得者の2倍以上を稼ぐ
医者の平均年収は1169万円。これは、厚生労働省による「2019年賃金構造基本統計調査」から試算した、従業員10人以上の職場における数字です。算出した医師の平均値は以下のようになっています。
平均年齢 男性:41.6歳 女性38.2歳
決まって支給される月の給与 男性:96万円 女性:79万円
平均賞与 男性:81万円 女性:68万円
平均年収 男性:1221万円 女性:1016万円
日本の給与所得者の平均年齢は46歳。したがって、勤務医の平均年齢は6歳程度若いことがわかります。これは、ある年齢を超えると、クリニックを開業したり、病院の経営職に就くなど、給与所得者ではなくなる医者が増えるからと推測されます。
※ここであげた年収は、あくまでも一事業所内で得られる賃金であり、アルバイト等の外部収入は含みません。
●他の職業との年収比較
同調査では事務職などを除く職種別の統計を出しており、年収額のトップは航空機操縦士で1695万円、第二位が医者となっています。他に1000万円前後の年収を得ている職種には、弁護士、司法書士、大学教授などがあげられています。
では、給与所得者全体の平均と比較すると、医者の年収はどれくらい差があるのでしょうか。
国税庁の発表によれば、1年を通じて勤務した給与所得者の平均年収は440万円(平均年齢46.4歳/正規雇用504万円非正規雇用179万円)。つまり、サラリーマンの平均からすると、医者の年収は倍以上という結果になります。(「平成30年分民間給与実態統計調査」より)
●35歳前後で1000万円の大台に
次に勤務医の年代別の年収を見ていきましょう。年収が1000万円を超えるのは35歳前後以降、総じて男性のほうが若干高くなっています。
20代:575万円(男性:613万円、女性:537万円)
30代:1042万円(男性:1075万円、女性:1010万円)
40代:1352万円(男性:1456万円、女性:1247万円)
50代:1488万円(男性:1724万円、女性:1552万円)
●実際の手取りはいくらなのか?
年齢とともに大きく上昇していく医者の年収ですが、もちろんこの額がすべて医者自身の手に入るわけではありません。収入に応じて高くなる保険料や税金を差し引いた手取り額は、かなりシビアなものになります。
扶養家族数や年齢によって前後はしますが、額面の年収が1000万円であれば、約15%が健康保険、雇用保険、厚生年金保険を合わせた社会保険料として差し引かれます。
そこから所得税と住民税を差し引きした手取り額は700万円~750万円程度。月額にすると60万円前後となり、潤沢な収入とは言い難いのが現実です。
●民間病院、私立大学病院、国立大学病院の年収差は?
勤務医のなかでも、働く場によって年収には差が生じます。おおよその額を示すと下記のようになります。
民間病院:1200万円
私立大学病院:1000万円
国立大学病院:800万円
大学病院の年収が、民間病院に比べて下がる大きな原因の一つは、予算配分における人件費割合が少なく設定されている点にあります。研究や医師の育成を目的とした場であり、利益追求を求めないという前提があるからです。
利益率の低い診療科であっても総合病院ですから閉鎖できず、赤字覚悟で継続せざるを得ない事情がある点も、民間病院との違いとなります。
なかでも国立大学病院は、厚生労働省が管轄する国の機関。収益をあげることよりも、国民のメリットを考えた研究や高度医療が目的となり、私立大学病院以上に人件費割合は少なくなります。
とはいえ、有名私立大学病院や国立病院での勤務は、高度な研究や難病治療に関わるチャンスがあります。
有名大学病院や国立病院の勤務経験は、医師としてのスキルアップや人脈の構築など、将来的な収入アップの蓋然性を高める道筋と言えそうです。
●大学病院の最高峰「慶應大学病院」の年収事情は?
近年、さまざまな「病院ランキング」が発表されています。特定の病気の手術件数や患者数、サイト閲覧数、医学部生が研修医として働きたい大学病院など、その種類は多岐にわたります。
数あるランキングのなかで、常に上位にランクインするのが、有名人や政治家の治療を数多く手がけることでも知られる慶應義塾大学病院です。順位がそのまま年収に結びつくわけではありませんが、医者のあいだでも「慶應の医者の年収は…」と話題にのぼることが多いのは事実。外来患者が一日3000人以上、年間手術件数も1万5000件を超える大病院。そのうえ、立地が東京都新宿区という利便性もあり、勤務先としての人気が高いのかもしれません。
●開業医の年収は勤務医の2倍以上
開業医の年収について、厚生労働省が2019年11月に発表した「第22回医療経済実態調査」の結果から確認していきましょう。
医療法人の有床診療所の院長:3466万円
医療法人の無床診療所の院長:2745万円
新規開業の年齢は、日本医師会の発表によると平均41.3歳(社団法人日本医師会2009年9月30日定例記者会見より)。
開業の動機は、「自らの理想の医療を追求するため」が42.4%、「勤務医または研究者時代の精神的ストレスに疲弊したため」が21.0%、「勤務医または研究者時代に過重労働に疲弊したため」が18.6%。「収入が魅力的」との回答は8.4%に留まっています。
医者の年収:診療科別でランキング
独立行政法人労働政策研究・研修機構が2012年に発表した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、診療科別の平均年収がもっとも高いのは脳神経外科の1480万円、ついで産科・婦人科の1466万円となっています。
脳神経外科:1480万円
産科・産婦人科:1466万円
外科:1374万円
麻酔科:1335万円
整形外科:1290万円
呼吸器科・消化器科・循環器科:1267万円
内科:1247万円
精神科:1230万円
小児科:1220万円
救急科:1215万円
放射線科:1103万円
眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科:1079万円
ただし、この調査は20床以上の病院に勤めている、24歳以上の医師を対象としているため、診療所(医院やクリニック)の院長及び勤務者は除かれています。
医者の年収はなぜ安い?医者不足で今後は右肩上がり?
●医者不足の真相とは
医者の年収は、ここ数年わずかながら減少傾向にあります。医師不足が叫ばれているなかで、なぜ、医師の年収が減少してしまうのでしょうか。
この問題を語るには、「医師不足」という言葉の本質を理解する必要があります。
現在、日本で起きている医師不足は、国民の数に対して医師の人数が不足しているという意味ではありません。問題は、実質的な数の不足ではなく、一部の診療科、一部の地域における医師の不足にあるのです。その代表が、麻酔科、小児科、救急科だと言われています。
●大学病院の年収が低い理由
特に大学病院では、臨床に当たる医師不足が顕著です。研究や教育に関わりながら臨床を行うために、実際に患者を診られる医師の数は必然的に不足します。結果として、一人当たりの医師が看る患者数は膨大であるにも関わらず、医者一人当たりに割り当てられる人件費が減ることになるのです。
しかも、2024年4月から、勤務医に新たな「罰則付きの時間外労働上限」規制が適用されることが決定しています。働き方改革の一つとして、年間の時間外労働時間を原則960時間以内に制限するものですが、これによって大学病院がますます人手不足に陥ることは明白です。
こうなると、時間外手当も減少し、医者の年収にも影響を与える可能性は否めないでしょう。
●年収や生涯賃金の地域格差は顕著。地方が圧倒的有利
上の表は、「2018年度版病院賃金実態資料/病院経営情報研究所編」を元に作成したものです。Aは主要都市、Bは地方と捉えてください。
経験年数25年未満では、地方が大都市圏を上回る年収であることがわかります。
生涯賃金では、大都市圏が4億5,141万円、地方の医師は5億31万円となっており、5000万円近い格差がついています。
医者が集中しがちな大都市圏では、「給与を抑えても人が集まる」と見込んでいる病院側がの思惑が読み取れます。
加えて、2018年4月に新専門医制度がスタートしたことも地域格差の原因になっていると考えられます。大都市に専攻医が集中するのを避けるために、大都市の病院では、若手の人材の賃金を引き下げたのです。逆に、地方の病院は若手の賃金を上げ、確実に良い人材を確保するように努めています。
大都市の病院で高い専門性を身に着けたいと考える若手にとって、厳しい状況が続くのは、当面、避けられそうにありません。
●高齢者が増加する日本において、医者の需要は高まるのか?
医療業界の展望は、国が定める「医療制度」抜きに語ることはできません。
2025年に国民の3人1人が65歳以上となることを念頭に、老人保健制度や介護保険制度の導入、介護療養病床の廃止、医療依存度の低い患者の病床の削減などが推し進められてきました。この流れによって、中小の病院では、病床の一部を老人介護施設へ転換を余儀なくされ、リハビリテーションに関しては拡充する病院が相次ぎました。
さらに、少子高齢化がこのまま進めば、2040年には現役世代1.5人が高齢者1人を支える時代がやってきます。わずかな蓄えしか持たず、年金も僅少な高齢者。終末期や認知症患者だとしても、病院がそのすべての受け皿になることは叶いません。
そのために「地域包括ケアシステム」が構築され、介護が必要になった高齢者のサポートを地域の中で完結させる動きがスタートしています。
このシステムによって、訪問診療に関わる医者が注目を集めています。クリニックに所属し、週のうち数日を訪問診療に費やす医者が増えており、年収2000万円を超える求人も見られるようになってきています。
これからの医療業界を医者が生き抜くには、高齢者医療に関する国の施策を十分理解する必要がありそうです。
医者が年収1億を稼ぐには…高収入シミュレーション
一般的なサラリーマンに比べれば、確かに給与の高い医者ではありますが、それでも年収は1000万円台。子どもを医大に進学させようと考える医者は多く、莫大な教育費で住居や趣味に思い切った出費をする余裕はありません。
医者が潤沢な収入を得るにはどうしたら良いのか、いくつかのプランを提案しておきましょう。
●副業・アルバイトをする
大学病院の医者のほとんどは、アルバイトで年収の不足を補っています。大学病院側もアルバイトを認めており、教授の紹介でクリニックや地域の中小病院で働く場合もあります。
診療科にもよりますが、時給換算で1万円前後、日給5~10万円が相場で、夜勤や当直のアルバイトであればさらに手当てがつく場合もあります。20代の頃は、病院からもらう給料より、アルバイト代のほうが高いという医者も少なくありません。
また、医者としての勤務だけでなく、製薬会社から頼まれた原稿を執筆したり、講演会に呼ばれて講演することで副収入を得る人もいます。
●投資をする
20代、30代の勤務医は、食事をする間もないほど多忙な業務に追われます。家庭を持てば別ですが、独身の場合には、もらった給料の使い道がないと嘆く人もいるほど。使わないお金を眠らせておくのであれば、投資で資産を増やすのも得策でしょう。
●フリーランス医師に転身
もともと、日本では医局が強い力を持ち、医局の息のかかった病院に人材を派遣する仕組みが続いてきましたが、近年、フリーランスで働く医者も徐々に増えてきています。
特に麻酔科医は人手不足が甚だしいこともあり、フリーランスの需要が高まっています。特に、無痛分娩の増加する産婦人科や、全身麻酔の必要になる美容整形外科では、フリーランスの麻酔科医の存在に助けられているクリニックも少なくありません。病院側も、常勤医を雇うより、経済的メリットがありウインウインの関係と言えます。
ただし、フリーランスで医者を続けるには相当の覚悟が必要です。新たな医療技術や知識は自ら仕入れ、勉強しなければなりませんし、万が一医療過誤があった場合、頼れるのは自分だけ。病院が盾になってくれることはありません。
また、税金の申告や保険の手続きなどを自分でしなければならない煩わしさも覚悟しておく必要があります。
●医者の所得が高いアメリカへ行く
アメリカは医者の年収が高いことで知られています。勤務医でも2000万円以上は当たり前、専門医になると5000万円以上稼ぐ人も。特に外科医の報酬はかなり高く設定されているようです。
その分、アメリカで医師免許を取得するには高いハードルを越える必要があります。大学の学部で4年、さらにメディカルスクールで4年勉強し、インターンを3年実施して、ようやく免許取得に至ります。
すでに医者として働いている日本人が、アメリカにわたって医者を続けるのであれば、メディカルスクールへ留学するのがもっとも現実的です。
ただし、難関の試験をパスしたうえに、論文の提出やボランティアの実績が必要であり、厳しい面接もクリアしなければなりません。専門用語も英語で読み書きできなければならず、相当な努力を要するでしょう。
●病院、クリニックを開業する
前述した通り、勤務医よりはるかに稼ぐことのできる開業医。しかし問題は開業資金です。親や親せきの後を継ぐ場合は別ですが、賃料、設備費をはじめとする開業前に必要な資金の準備をしなければなりません。
設備投資が比較的少ない精神科でも1500万円以上の開業資金が必要です。眼科や整形外科、耳鼻咽喉科等、高額な医療機器を設置する診療科では、5000万円前後の資金を要する場合もあります。設備の充実がクリニックの評判に関わってくるだけに、慎重かつ大胆な設備投資を考えなければなりません。
開業資金には当面の人件費や広告宣伝費なども計上しておおく必要があります。開業する以上、医者としてだけでなく、経営者としての視点を持たなければなりません。自分だけで判断するのは避け、信頼できる経営のパートナーもしくは相談役とともに歩むことも大切です。
開業医は経営次第で、院長の年収に大きな差が生じます。人気のクリニックに成長させることができれば、年収1億円も決して夢ではありません。
福井 紀之
福井税務会計事務所
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