ひざの痛みの原因である「変形性膝関節症」が進行すると、投薬やヒアルロン酸注射による、症状の改善は難しくなります。「もしかして手術が必要?」と不安になるかもしれませんが、東京ひざ関節症クリニック銀座院の輿石暁院長は「選択肢は手術だけとは限らない」と伝えます。本記事では、手術のリスク、そして手術となる前に検討したい治療について伺いました。

ひざの痛みの原因「変形性膝関節症」手術方法は?

40代以降で始まるひざの痛み。その多くを占める「変形性膝関節症」の手術には、主に以下の3つのタイプがあります。

 

◆「関節鏡視下手術」効果は限定的で、持続しにくい

関節内部に小さなカメラを挿入し、ささくれている軟骨や、擦り切れた半月板、損傷した組織などを取り除く手術です。関節内で摩擦の起きていた部分を取り除くことで、痛みや違和感が軽減することがあります

 

入院期間は数日。小さな傷だけで済むこともあり、体への負担は軽いタイプの手術です。しかし、あくまでも関節内を掃除するイメージで、効果は長く続きません。ほとんど効果を感じられないことも少なくないです。

 

◆「骨切り術」 1年後に金属プレートの抜去手術が必要

ひざ関節にO脚(内反変形)やX脚(外反変形)が起こり、強い痛みの継続や歩行が難しくなった場合に選択される手術です。脛骨もしくは大腿骨に切り込みを入れ、人工骨を挿入し、金属で固定をすることで関節の変形を矯正します(下の図説は脛骨の手術例)。術後は松葉杖などで荷重制限が必要です。

 

自分の骨を温存できることが特徴で、初期~中期の変形にすすめられる手術です。デメリットは、骨切り自体の痛みがしばらく残るのと、関節面の痛み自体も残ることがあるということです。骨切り部の骨癒合が得られないこともあり、金属の抜去は早ければ1年ですが、もっと先になったり再手術が必要になることもあります。

 

◆「人工関節置換術」 ポピュラーな手術だが、痛みが完全になくなるわけではない

もっとも多くの患者さんが行っている手術であり、日本での手術件数はここ10年で2倍に増加しています。変形した関節の代わりに、金属、セラミック、ポリエチレンなどでつくられた人工関節を骨の上に固定する手法で、関節全体を交換するのが一般的です。悪くなっているのが内側、または外側だけであれば、関節の一部だけを交換するケースもあります。

 

ひどい痛みを抱えていた人にとって、症状の緩和には有効とされていますが、術後、ひざの曲げ伸ばしが困難になったり、痛みが完全に消えなかったりする事例があるなど、デメリットもあります。

 

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40代、50代に「人工関節」の手術をすすめないワケ

◆人工関節はできれば70歳を過ぎてから

3つの手術のうち、多くの患者さんは「人工関節置換術」を行っていますが、医師が手術をすすめるのは、たいていが60歳を過ぎてから。それまでは、投薬やリハビリ、ヒアルロン酸注射で乗り切ることを推奨します。

 

そうして、変形がかなり大きくなり、歩くのが困難になった60歳前後で、「もう、手術しかありません」と宣告される…というのが、変形性膝関節症の治療経過としてよくある流れです。ただ平均寿命も年々高くなり、ひと昔前とは状況も異なります。だから、個人的には60歳でも人工関節の手術はまだ早いと思っています。早くても65歳、できることなら70歳までは避けた方が良いと考えています。

 

◆人工関節は一生モノではないという事実

年齢によって人工関節置換術をすすめない第一の理由は、人工関節の耐用年数が15~20年といわれており、若い年齢で手術をした場合、高齢期に再手術を余儀なくされるケースがあるからです。人工関節を固定している器具がゆるみ、人工関節が破損、抜去せざるを得ない場合もあります。

 

しかし高齢になると、安易に再手術はできません。人工関節置換術は出血量が300~700ミリリットルにも及ぶ大がかりな手術で、体への負担は相当なものです。手術による感染やエコノミークラス症候群のリスクも十分考慮しなければなりません。

 

また、術後には歩行訓練など適正なリハビリの継続が必須であると同時に、しばらくは杖も必要になります。現役世代では杖をついて歩くことに抵抗を感じる人もいますから、なんとか60歳(私の場合は70歳)までは手術せずに温存したい……と医師も患者も考えるのです。

 

◆術後のデメリットは覚悟しなければならない

変形性膝関節症の症状によっては、人工関節置換術を選ぶしかない場合もありますが、2~3割の人は痛みが取れない、あるいは痛みが再発する可能性があることは理解しておくべきでしょう。

 

ほかにも、ひざの可動域が制限され、正座ができない、靴下を履くのに苦労するなどという声もよく聞かれます。激しい運動は器具の破損につながるので避けなければなりません。重い荷物を持ったり、体重が増加したりすることも人工関節に負担をかけるので細心の配慮が必要です。

 

◆長い入院期間が手術の壁になる

医師が人工関節置換術をすすめても、患者さんが「今はできない」と断るケースも少なくありません。それは、入院期間が3~4週間に及ぶことが大きな原因です。仕事を休めない、家事を人に任せられないなど、40代、50代にとっては当然の理由といえるでしょう。しかし、積極的な治療を行わずにやり過ごすことは、ひざ関節の変形をますます悪化させ、痛みは増すばかりとなってしまいます。

 

◆手術の適応年齢までは痛みに耐えるしかないのか?

人生で二度も人工関節置換術の手術はしたくない。しかし、痛みを抱えながら現役世代を乗り切るのも難しい……。そんな人にとって、明るい材料となるのが、再生医療をはじめとする最先端の変形性膝関節症治療です。

 

たとえば、患者さんの血液を利用した「PRP-FD注射」は、自己治癒能力を一時的に高める作用が期待できます。患者さんの不要な脂肪細胞を利用する「培養幹細胞治療」では、長期的な痛みの軽減効果が得られています。

 

臨床がスタートして間もない治療ゆえに、具体的に「何がどう作用したか」まで、明確にお伝えすることはできませんが、患者さん自身の自己治癒力がひざ関節の組織を活性化させ、よい状態に戻ろうとしていると説明するには、十分な治療効果を実感しています。もちろん医療全般に言えるように、効果の程度や経過については進行具合によって異なりますが、それでも手術だけだったこれまでの治療検討に幅を持たせてくれていることは確かです。

 

一生自分の骨や筋肉を使って「歩く」。そのためには、できるだけ初期の段階でこうした治療も選択肢として考えることが望ましいといえるでしょう。

 

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