1.概観
【株式】
米国、日本の株式市場は、米中協議が部分合意に達するとの期待感や、英国の合意なき欧州連合(EU)離脱が回避される見込みとなったことを好感して上昇しました。欧州の株式市場は、米中協議への期待感や、英国の合意なきEU離脱が回避される見込みとなったことを好感してドイツの株式市場が上昇しました。一方、英国は月初の大幅下落から合意なきEU離脱の回避が見込まれて値を戻したものの、ポンド高が株価の圧迫要因となり、月間では下落しました。
【債券】
米国の長期金利は、米中交渉進展期待の高まりや、好調な米経済指標を受けて上昇しました。月末には、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げなどから上昇幅が縮小しました。欧州の長期金利は、米中貿易交渉の進展期待や英国とEUの離脱協定案合意への期待などからドイツ、英国の10年債利回りは上昇しました。日本の長期金利は、米長期金利に連動し上昇しましたが、日銀の金融政策会合を受けて上げ幅を縮小しました。米国社債の米国債との利回り格差は縮小しました。
【為替】
円はユーロ、豪ドルなどに対し下落しました。米中貿易協議の進展期待が高まったほか、英国とEUの離脱協定案合意への期待の高まりを受けて安全資産とされる円が売られました。一方、円は対米ドルでは横ばいでした。米中貿易協議の進展期待などで円安が進行しましたが、月末のFRBによる利下げを受けて米ドルが売られ、値を戻しました。
【商品】
原油先物価格は、石油輸出国機構(OPEC)による協調減産の強化観測の高まりを好感しましたが、原油在庫の増加が重石となり、小幅上昇となりました。
2.景気動向
<現状>
米国は、19年7-9月期の実質GDP成長率が前期比年率+1.9%となりました。生産調整の影響から、設備投資のマイナス幅が前期から拡大しました。
欧州は、19年7-9月期の実質GDP成長率が前期比年率+0.8%と、前期と同程度の伸び率となりました。
日本は、19年4-6月期の実質GDP成長率が前期比年率+1.3%となりました。設備投資を主因に速報値から下方修正されました。
中国は、19年7-9月期の実質GDP成長率が前年同期比+6.0%となり、前期の同+6.2%から減速しました。民間投資が下振れました。
豪州は、19年4-6月期の実質GDP成長率が前年同期比+1.4%となりました。賃金の弱い伸びと住宅建設の急減速が国内消費を圧迫しました。
<見通し>
米国は、生産調整が一巡しつつあることや、米中追加関税の一層の拡大が回避される見込みとなり、20年以降、緩やかに持ち直す展開となりそうです。
欧州は、雇用や内需が下支え材料となりますが、中国経済の緩やかな減速などを背景に製造業の低迷が長引くと見られます。ドイツの財政を巡る動きや、英国の欧州連合(EU)離脱問題の行方などが注目されます。
日本は、外部環境悪化や消費増税などから緩慢な成長が続くと見られますが、景気対策や人手不足対応の投資が下支えとなりそうです。
中国は、民間企業活動が低迷した状態が続くと見られますが、政府の財政政策と金融緩和が下支えとなりそうです。
豪州は、設備投資の回復や減税効果が徐々に現れると見られるものの、住宅市場の回復遅れや伸びが鈍い賃金・物価動向などから、緩やかな成長が続くと予想されます。
3.金融政策
<現状>
米連邦準備制度理事会(FRB)は、10月29-30日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(FFレート)の誘導レンジを1.75~2.00%から1.50~1.75%に引き下げました。声明文では、これまで先行きの利下げを示唆してきた「成長維持のため適切に行動する」という文言が削除され、今後の政策判断は、経済見通しに関する情報を注視するという表現にとどまりました。
欧州中央銀行(ECB)は、10月24日の理事会で金融政策の据え置きを決定しました。
日銀は10月30-31日に開催した金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定しました。一方、フォワードガイダンスを修正し、現行の金融政策を続ける期間について、「少なくとも2020年春頃まで」を、「物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるおそれに注意が必要な間」に変更しました。
<見通し>
FRBは、経済見通しに不確実性が高まった場合、追加緩和に踏み切る可能性がありますが、当面は現状の政策金利水準を維持すると見られます。
ユーロ圏では、成長率やインフレ率の見通しに下振れリスクがあり、追加利下げの余地があると考えられます。来年前半にかけて再緩和(0.1%の利下げ追加と債券購入拡大)を予想します。
日本では、9月会合で示した経済・物価動向の点検を行い、成長率見通しと物価見通しを引き下げた一方、現時点ではモメンタムが損なわれるおそれが一段と高まる状況ではないものの、引き続き注意が必要な情勢にあるという判断が示されました。円高や株安が加速しなければ、当面現状の大規模緩和を維持するとみられます。
4.債券
<現状>
米国では、10年国債利回りが上昇しました。月初は軟調な米経済指標から景気後退懸念が高まり、一時1.5%台まで低下しましたが、その後、米中貿易交渉での部分合意期待の高まりなどから上昇に転じました。月末には、FRBによる政策金利引き下げを受けて上げ幅を縮小しました。米国社債の米国債との利回り格差は縮小しました。
欧州では、ドイツの10年国債利回りが上昇しました。米中貿易交渉の進展期待や英国とEUの離脱協定案合意への期待などからリスク選好度が高まりました。
日本の10年国債利回りは、米長期金利に連動し上昇しましたが、日銀の金融政策会合を受けて上げ幅を縮小しました。
<見通し>
米国では、予定関税の猶予など当面の米中対立激化リスクがやや後退した一方、FRBは今後も緩和的な姿勢を維持すると見られることから、米中対立の緩和が金利レンジを押し上げるとしても緩やかであり、大局的には長期金利は低位での推移が続くと見られます。
欧州では、ECBが9月に金融緩和再開を決定しましたが、来年前半までに追加緩和が見込まれるなど金融緩和策が続く見込みです。米中通商問題や英国のEU離脱問題などにより金利の変動レンジは若干上下すると見られますが、低位での推移が続くと予想されます。
日本では、インフレ率が鈍化するなか、日銀がフォワードガイダンスを実質的に長期化したことから、長期金利はマイナス圏での推移が続くと予想されます。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の10月の1株当たり予想利益(EPS)は176.72米ドル(前年同月比の伸び率は+0.9%)で、前月の177.43米ドルを上回れず、過去最高益の更新は5カ月で止まりました。一方、東証株価指数(TOPIX)の予想EPSは121.82円(同▲9.3%)で、9カ月連続のマイナスでした(いずれも予想はリフィニティブI/B/E/Sベース)。10月の米国株式市場は、米国の軟調な景況指数や好調な雇用統計といったまだら模様な経済指標や、10~11日の米中協議への報道に一喜一憂する展開となりました。米中協議で部分合意との報道が伝わると、株式相場は堅調さを取り戻しました。30日のFOMCでは市場の予想通り25bpの利下げが決定したことも好感され、S&P500指数は史上最高値を更新しました。S&P500種指数は前月比で+2.0%、NYダウが同+0.5%、ナスダック総合指数が同+3.7%でした。一方、日本株式市場も、米中協議の部分合意を好感して上昇しました。月末にかけては米国の株高や企業業績への改善期待などから堅調な推移となりました。TOPIXは前月比+5.0%、日経平均株価は+5.4%でした。
<見通し>
S&P500種指数採用企業の予想EPS増益率は19年が前年比+1.2%(前月同+1.8%)、20年が同+10.4%(同+11.2%)と前月同様小幅な修正となりました(19年10月31日発表、リフィニティブI/B/E/Sベース)。一方、日本(TOPIX)の予想EPS増益率は19年が前年比+3.4%(前月同+4.2%)、20年が同+5.1%(同+4.7%)(東証一部、Bloomberg集計、19年10月31日現在)と20年の見通しが若干上振れました。今後は、11月中に開催が見込まれている米中首脳会談が注目されます。また、中国への追加関税の実施が延期されるなど、景気や業績に対するマイナス材料は薄れる方向にあり、回復局面入りが近づきつつあります。日米株式市場は、共に緩やかな上昇が期待されます。
6.為替
<現状>
円はユーロ、豪ドル、ポンドなどに対し下落しました。米中貿易協議の進展期待が高まったほか、英国とEUの離脱協定案合意への期待が高まったことなどを受けて安全資産とされる円が売られました。一方、月末には米国の利下げを受けてやや円高が進行したため下落幅が縮小しました。一方、円は米ドルでほぼ横ばいでした。前述の米中協議の進展期待や英国のEU離脱に関する不透明感が和らいだことから月末にかけて円安・ドル高方向で推移しましたが、月末のFOMCで政策金利が引き下げられたことから円高・ドル安となり、月間ではほぼ横ばいとなりました。ポンドは、英国の合意なきEU離脱に対する懸念が和らいだことから、円に対し大幅に上昇しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、日米金利差や日本の国際収支の構造変化などから見て、米国が景気後退に陥らなければ1ドル=100円を切るような大幅なドル安・円高となる可能性は低いと見られます。一方で、FRBによる金融緩和や米長期金利の下方シフトがドルの上値を抑制すると見られるため102.50-110.00円程度での推移が続くと見られます。
円の対ユーロレートは、ユーロは底値圏にあると見られるものの、欧州景気の低迷を背景にECBによる量的緩和(QE)再開など金融緩和策が強化されていることからレンジでの推移が続くと見られます。
円の対豪ドルレートは、豪の減税効果などによる景気の持ち直しが支援材料になる一方、金融政策では先行きに利下げが見込まれることや、米中対立の懸念が残ることが豪ドルの重石となりそうです。
7.リート
<現状>
グローバルリート市場(米ドルベース)は、米国をはじめとして世界的に金融緩和が継続する中で、相対的に利回りの高いリートが選好される展開が続きました。また、米中貿易交渉の進展期待が強まったことや、英国とEUによる離脱協定案合意を受けてリスク選好度が高まったことから、前月比で+2.15%上昇しました。一方、円ベースの月間変化率では、同+2.18%の上昇となりました。ドル円レートは、月間でほぼ横ばいでした。
<見通し>
FRBやECBなど主要国が金融緩和を継続する中で、低金利が続くと見られることなどから、根強い利回り商品への需要などがリートにとって好材料となりそうです。一方で、景気要因や供給増加による不動産市況改善ペースの鈍化も見込まれます。こうしたなか、リートのディフェンシブ性が選好され、底堅い展開が予想されます。
8.まとめ
<債券>
米国では、予定関税の猶予など当面の米中対立激化リスクがやや後退した一方、FRBは今後も緩和的な姿勢を維持すると見られることから、米中対立の緩和が金利レンジを押し上げるとしても緩やかであり、大局的には長期金利は低位での推移が続くと見られます。
欧州では、ECBが9月に金融緩和再開を決定しましたが、来年前半までに追加緩和が見込まれるなど金融緩和策が続く見込みです。米中通商問題や英国のEU離脱問題などにより金利の変動レンジは若干上下すると見られますが、低位での推移が続くと予想されます。
日本では、インフレ率が鈍化するなか、日銀がフォワードガイダンスを実質的に長期化したことから、長期金利はマイナス圏での推移が続くと予想されます。
<株式>
S&P500種指数採用企業の予想EPS増益率は19年が前年比+1.2%(前月同+1.8%)、20年が同+10.4%(同+11.2%)と前月同様小幅な修正となりました(19年10月31日発表、リフィニティブI/B/E/Sベース)。一方、日本(TOPIX)の予想EPS増益率は19年が前年比+3.4%(前月同+4.2%)、20年が同+5.1%(同+4.7%)(東証一部、Bloomberg集計、19年10月31日現在)と20年の見通しが若干上振れました。今後は、11月中に開催が見込まれている米中首脳会談が注目されます。また、中国への追加関税の実施が延期されるなど、景気や業績に対するマイナス材料は薄れる方向にあり、回復局面入りが近づきつつあります。日米株式市場は、共に緩やかな上昇が期待されます。
<為替>
円の対米ドルレートは、日米金利差や日本の国際収支の構造変化などから見て、米国が景気後退に陥らなければ1ドル=100円を切るような大幅なドル安・円高となる可能性は低いと見られます。一方で、FRBによる金融緩和や米長期金利の下方シフトがドルの上値を抑制すると見られるため102.50-110.00円程度での推移が続くと見られます。
円の対ユーロレートは、ユーロは底値圏にあると見られるものの、欧州景気の低迷を背景にECBによる量的緩和(QE)再開など金融緩和策が強化されていることからレンジでの推移が続くと見られます。
円の対豪ドルレートは、豪の減税効果などによる景気の持ち直しが支援材料になる一方、金融政策では先行きに利下げが見込まれることや、米中対立の懸念が残ることが豪ドルの重石となりそうです。
<リート>
FRBやECBなど主要国が金融緩和を継続する中で、低金利が続くと見られることなどから、根強い利回り商品への需要などがリートにとって好材料となりそうです。一方で、景気要因や供給増加による不動産市況改善ペースの鈍化も見込まれます。こうしたなか、リートのディフェンシブ性が選好され、底堅い展開が予想されます。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2019年10月のマーケットの振り返り』を参照)。
(2019年11月6日)