一億総中流社会といわれた時代が終わりをつげ、「中間層」と呼ばれた人々が消え、新たな貧困層が増えつつあるといわれて久しい。一方で、日本国内ではおよそ20世帯に1世帯が1億円以上の資産を持つともいわれ、新しい格差社会の到来が現実的なものとなっている。本記事では、所得の高い層の人的資本も含む「世襲」の簡単なメカニズムを、分かりやすい2つの職業を例に見ていく。

政治家にとって「三バン」は大事な資産

環境大臣兼内閣府特命担当大臣に任命され、キャスター滝川クリステル氏との結婚に続いて話題を振りまいている小泉進次郎氏。その華やかなルックス等から政界のプリンスともいわれ、お茶の間を中心に有権者からの人気も高い。

 

一方で大臣就任後、さきの福島第一原発事故で発生した除染廃棄物について、具体的な案を問われた際の回答に対し、ネットを中心に「言ってる意味がわからない」といった声が上がるなど、その政治的な手腕はまだ未知数といってよく、人気取りの入閣と揶揄される一因ともなっている。

 

これといった社会経験もなく政界に入った小泉氏であるが、父親はご存じ元内閣総理大臣の小泉純一郎氏であり、今さらいうまでもなく「世襲議員」のひとりである。

 

小泉氏に限らず、現在政治家の少なくない割合で世襲議員は多く、日本は世界的に見てもその割合が高いとされているが、それはなぜか。ひとつに選挙で当選するための以下の3要素、いわゆる「三バン」に恵まれているからともいわれている。

 

①ジバン(地盤)

選挙区内の支持者の組織、いわゆる後援会組織。これが直接的な票と結びつき、当然有利である。

 

②カンバン(看板)

知名度等のこと。街中の看板のように有名であるという例えから来ているが、世襲候補はそもそも知名度が高く、この点において有利である。

 

③カバン(鞄)

ずばりお金(選挙資金)のこと。高額な供託金、選挙期間における各経費等、政治活動には何かとお金がかかる。潤沢な資金がなくとも、①等を通じて資金集めを効率的に行う術を親世代から引き継いでいる。

 

さらに③でいえば、2015年の相続税法改正等で、幅広い層が相続税対策に頭を悩ませる中、政治資金団体の相続は、相続税、贈与税とも一切かからず、原則的に「非課税」であることも大きい。政治家にとって「三バン」とは大事な資産であり、「資産形成」がなされたあとは、合理的理由で「継承」されるのはある意味当然なのかもしれない。

 

「社会的使命感」も政治家と医師の共通点

数の規模こそ違えど、政治家同様に「世襲」が多い職業は、会社経営者、農業等いくつかあるが、中でも政治家と共通する「継承理由」を持っているのが「医師」ではないだろうか。

 

ある統計では、医師の中でおおよそ25%が医師の父親を持っているという。おおよそ4人の1人という割合だが、やはり多いという印象である。その中でも、さらに開業医院の親から子への継承は多く見られるケースであろう。

 

なぜ引き継がれるのか、政治家との共通点を、「三バン」と照らし合わせて見てみよう。

 

・ジバン、カンバン

開業医とその地域の患者との関係性はまさに「ゆりかごから墓場まで」といえるほど濃密だ。開業医の子どもは患者をそのまま引き継ぐことができ、また患者側も親しんだ医師の子息である安心感で、地域の医院に通うことはごく自然である。

 

・カバン

これが一番のアドバンテージといえる。まず医院を開業するための資金、イニシャルコストがかからず、手間が必要なくそのまま継承すればいい(政治家と違い、相続税は発生するが)。また、開業医の平均年収は2000万~3000万円ともいわれており、高偏差値で難関となっている国立大の医学部を目指すための対策費用、あるいは学費が平均4000万円ともいわれる私立医学部への入学等、子どもの教育費を賄うに充分な収入を確保している点も大きな強みである。

 

さらに政治家と医師の共通点といえばその「社会的使命感」にあるともいえる。国の将来を左右する「政治」をつかさどる、病気やケガに苦しむ人を助ける、人命を預かっているという社会的使命感である。それらは、企業の世襲等にはないものであろう。

 

これらの要素を鑑みれば、親子で「職業」を継承するのは自然な流れともいえるが、人的資産も含めた「世襲」に対する世間の風当たりは想像以上に強い。

 

例えば国会議員は、世襲によって、政治を志す普通の人々の参入機会が奪われている、あるいは能力が不足しているにも関わらず、「二世」というだけで政治家になっていいのか、といった類の批判である。さらに医師でいえば、高額化した医大の学費によって、優秀であっても親の収入に左右される「機会不均等」の問題等も論議されているところだろう。

 

親の経済力によって子どもの将来が決まる、まさにその象徴ともいえる2つの職業だが、戦前までさかのぼればの話にはなるが、ごく一部の「富裕層」と多くの「庶民」という形で、階層は固定されていた。

 

ところが戦後、世界でも類を見ない高度経済成長を迎えた日本で、「中流」という新たな層が生まれた。米国や英国といった欧米先進国であっても、もともと階級社会の色が濃く、年功序列・終身雇用という安心のもとで働くことができる、先進国でも類を見ない「格差がない社会」が生まれたのは、ここ50年位の出来事であるという見立てもある(これまでが奇跡的なバランスの上で成り立ってた社会である等)。

 

一億総中流社会といわれた時代が終わりをつげ、「三バン」を持たない人々は試行錯誤しながら新たな道を模索する「混沌期」へと突入しつつある。しかし、先に取り上げた日本の未来を左右する国会議員を選ぶ権利がまだ人々にある限り、真の格差社会に陥ったとはいえないというのはきれいごと過ぎるだろうか。

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