「建築家のデザイン」を取り入れたオンリーワンの物件で知られる神奈川の注文住宅大手タツミプランニングと、日本最大級の建築家ネットワークを作り上げたアーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)。本企画では、両社がタッグを組んで空室リスクの低減を狙う、「建築家のデザイン」を取り入れた収益物件の魅力を、第一線で活躍する建築家の方々に語っていただく。第4回目のテーマは、「収益物件のコストとデザインのバランス」である。

クライアントと一緒に楽しみながら予算を抑えていく

――コストとデザイン性を両立させるために、建築家の方々はどのような工夫をされているのでしょうか。

 

岡田勲 氏
岡田勲 氏

岡田 最初から“〇〇風で行きましょう”といったアプローチでないことは確かです。どちらかというと、基本方針は決めたとしても、設計や積算を進めながらアイデアを出し、調整をしていくスタイルです。

 

例えば、クライアントの要望に合わせて、天井が高い空間で、南向きの廊下側に大開口のサッシを入れたとしたら、どこかで大幅にコストを吸収しなくてはなりません。そうしたら天井は断熱性を確保しながらスケルトンにして、鉄骨部デッキプレートをむき出しにしましょうと。都心部でちょっとNYっぽいというか、スケルトンで配管露出みたいなクラブやバーで飲んでいる若者にアピールできますと提案するのです。

 

このように、クライアントと一緒に何らかのテーマを決めつつコストを下げるのも楽しみながら、設計を進めています。以前、土足で上がる家を提案したことがあって、そのときはお客さんが床を貼るお金が勿体ないというので、試しに一部屋だけやってみましょうということになったのですね。幹線道路沿いで、なかなか人も入らないだろうから思い切りやっていいといわれたので(笑)。そうしたらなんと、その土足の部屋から決まりましたよ。

 

土橋 その物件はよく覚えています。ちょっと、やりすぎだなぁ、と思いながら見ていました(笑)。オーナーさんも自身も、同じように思いながらも楽しんでいたようで、そうすると、建物を愛してくださるんですよね。楽しみながら予算を押さえて、さらにクライアントも喜んでいただけた好例ではありました。

 

私も基本的な考え方は岡田さんと同じで、まずはコストありきで、その範疇でどこまで良いものをご提案できるのか、様々なアイデアの引き出しを開けていきます。例えば、天井に照明をつけずに床にスタンドを6個ぐらい置いていただくよう提案して、電気工事をなくせば、その分の工事費や管理費が圧縮されるのですね。

 

そういった話をするとクライアントさんもお住まいになる方も、照明のことをすごく考えるようになる。建物自体に興味を持ち、愛着を持っていただくようになる。遊びに来た友だちに“照明器具がないじゃない”言われて、“実はこうなんだよ”とレクチャーしてくださるようになります。こういったアプローチも必要なのかなと思います。

 

コストを下げているのに価値が上がる理由とは?

――コストに関しては、かなりシビアなのですね。そんなイメージはありませんでした。

 

矢作昌生 氏
矢作昌生 氏

矢作 建築家って、結局自営業ですから、皆さん、お金の管理がすごいんですよ(笑)。自分たちもスタッフを抱えて、設計をして、その報酬で生活をしているので、ものすごくシビア。コストオーバーしてしまったら、プロジェクト自体が無くなってしまうので、きっちりお金のことは考えています。ところが、それだけを考えていると面白いものができないので、右脳と左脳を同時進行で動かしながら進めていく。

 

どういうことかと言うと、デザインというのは、足し算ばかりではない。むしろ引き算のほうが大切です。照明器具をやめて、ライティングダクトだけはつけておけば照明工事の必要がなくなりますし、コンクリートの打ちっぱなしの壁は、クロスの張り替えがなくなって、メンテナンス費用が掛からない。そういった物件が好きな人が必ずいて、そこに住んでもらえれば良い。これはまさに引き算ですよね。

 

見積書も、初見からどんどん値段を落としながら進めていく。ところがコストを下げても、価値自体はむしろ上がるんですよ。それが建築家起用の価格的メリットです。最大で50%を落とすのですが、建築段階ではオーナーさんにご提案をして、了承をいただきますが、入居がスタートして1年も経つと、何を落としたか覚えていないんですよ。金額を落としたことは覚えているのに(笑)。

 

オーナーさんの要望が膨らみすぎていた部分をダイエットしただけであって、大事なところは落としていないから忘れてしまう。ダイエットした後の贅肉を忘れてしまったような感覚ですよ。それこそが一番の成功例ですね。

 

取材・文/伊藤 秋廣 撮影(人物)/永井 浩 
※本インタビューは、2017年8月30日に収録したものです。