「建築家のデザイン」を取り入れたオンリーワンの物件で知られる神奈川の注文住宅大手タツミプランニングと、日本最大級の建築家ネットワークを作り上げたアーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)。本企画では、両社がタッグを組んで空室リスクの低減を狙う、「建築家のデザイン」を取り入れた収益物件の魅力を、第一線で活躍する建築家の方々に語っていただく。第3回目のテーマは、「競争力を生む収益物件のデザイン」である。

ニッチなライフスタイルの人にきっちり刺さる物件を

――やはり、オーナーさんからは競争力を生むデザインが求められるのですね。

 

矢作昌生 氏
矢作昌生 氏

矢作 確かにそうではありますが、私たちがデザインを通じて提供する競争力は、一般的なそれとは少し違っています。例えば、物件に10部屋を用意したとします。ところがそこに、100人も1000人も殺到しても受け入れることができませんよね。一般的なハウスメーカーさんの物件は、広く全員に好かれようと考えながら設計をしますが、みんなが70点くらいしか採点をしない。めちゃめちゃ美味しいラーメン屋ではなく、チェーン店のラーメン屋さんと同じで、どこでも食べても同じだから、どの店でも良いのですよ。

 

一方、建築家が提案する収益物件は、いわばニッチなライフスタイルを送りたいと考える人たちに刺さればよいのですね。例えば、車が好きな人にはガレージ付きの物件を用意するとか。しっかり絞り込めば、そこに100人は殺到しないけれども、常に10人以上の希望者が入れ替わり、立ち代わり、ずっと入居してくれます。居心地が良いから、長く住んでくれる。だから、家賃が下げることなく、安定した収入を得ることができるのです。

 

――矢作先生が手掛けたものの中で、そういったニッチな具体例などありますか。

 

矢作 僕の事務所が入っているのは6世帯が入るワンルームマンションで、片廊下側が全面ガラス張りになっているんですよ。一応、作り付けのロールスクリーンを用意しているのですが、皆さん、開けっ放しで(笑)。綺麗に住まわれていますし、廊下を通っているときにアイコンタクトも生まれるし、ちょっとした交流も生まれる。

 

デザイナーやアーティストが暮らしているのですが、気に入ってくれたようで、もう長く暮らしているんですよ。まあ、普通の人だったら、部屋が見えるなんてとんでもないと、住めないでしょうけれど。ところがこの物件に入る人って、他とは比べないのですよ。ここを見たら即決するんです。

 

山本 オンリーワンなんですよ。たくさんの物件情報を並べて、その中から条件で選ぶのではなく、“これがいい”と言ってくれる人がいるというのが一番強いですよ。価格勝負ではなくなりますから。

 

コストを下げながら、デザインの品質も上げていく

――ハウスメーカーのデザイナーズマンションに比べて、建築家デザインの物件は高いのではいないかというイメージがありますが。

 

土橋弥生 氏
土橋弥生 氏

土橋 そんなことはないと思います。私たちも、まずはマックスボリュームの中で何ができるか?というところから検討をはじめます。収益バランスを考えたうえで、土地を読み込む作業を始めますから。私はどこかのハウスメーカーや建材メーカー専属の設計士ではないので、しっかり、何社も相見積もりをとって検証します。

 

“建築家はデザインだけをシュッとやっている”と思っている人もいるかもしれませんが、そんなことはありません(笑)。厳しい条件の中で、長く愛することができる物件を作り上げていくので、建築家に頼んだほうが良いに決まっているのですよ。

 

岡田 土橋さんの言う通り、デザインとコストのバランスのとり方でも大きな違いが現れていると思うのですね。僕らはけっしてデザイン先行で、費用を度外視するという感覚ではない。むしろコストを下げながら、デザインの品質も上げていくような工夫を重ねています。一般的なデザイナーズマンションでは、それを実現することは不可能でしょう。

 

取材・文/伊藤 秋廣 撮影(人物)/永井 浩 
※本インタビューは、2017年8月30日に収録したものです。