「建築家のデザイン」を取り入れたオンリーワンの物件で知られる神奈川の注文住宅大手タツミプランニングと、日本最大級の建築家ネットワークを作り上げたアーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)。本企画では、両社がタッグを組んで空室リスクの低減を狙う、「建築家のデザイン」を取り入れた収益物件の魅力を、第一線で活躍する建築家の方々に語っていただく。第5回目~第6回目では、建築家のデザインだから実現した「高収益物件」の実例を紹介する。後編となる今回は、岡田勲氏、土橋弥生氏、山本健太郎氏の手掛けた物件である。

将来の相続を見据え、分筆まで考慮した2棟建てに

――(前回に引き続き)皆さんが実際に手がけられ、印象に残っている物件をご紹介いただけますでしょうか。

 

敷地の扇形状を最大限に活用
変形の扇形状を最大限に活用
美しい景色もデザインの一部だ
美しい景色もデザインの一部だ

岡田 建築家に頼む物件って、傾斜地や変形地のような個性的な土地が多かったりするのですね。私が手がけたのは金沢八景に位置する扇形の敷地。これまで多くのハウスメーカーが5年間にわたって、四角い画一的な物件を提案し続けていて、どうも納得がいかなかったようです。

 

紹介を受けて現地を見に行くと、扇型の土地の向こうに海が広がっている。最高ですよね。もちろん、その美しい景観を取り入れながら、扇形の土地にうまく住居を配置して、オーナーさんにご満足をいただきました。

 

土橋 印象に残っているのは、川崎の広い敷地の家に、80代になるお婆さまがおひとりで住んでいらっしゃって、その土地を2人の息子さんに分筆して相続をさせようというお話です。将来を見込んで収益物件を2棟建てにして、その真ん中に昔からそこにあった大きなケヤキの木を残しつつ、さらにそこを共用部にして人々が集えるようにしたのですね。今住んでいる人はもちろん、過去の思い出から将来まで、すべてに配慮した設計となりました。

2筆に分筆された敷地にそれぞれ1棟ずつ建ち、将来の相続にも対応できる
2筆に分筆された敷地にそれぞれ1棟ずつ建ち、将来の相続にも対応できる
中庭を配置し、どの部屋からも緑が楽しめる
中庭を配置し、どの部屋からも緑が楽しめる

 

山本 ちょうど一年前にASJのイベントに来場した方なのですが、等々力にある親御さんの土地を相続されて、そこに収益物件を作りたいというお話をいただきました。オーナーさんの趣味が自転車だというので、同じような嗜好の人が集まるようにと、屋内に自転車を置くスペースを用意しました。

 

将来的に需要がどのように変わるかわからないので、お隣さんとの境に構造的には計算に入れない壁を作って、最終的には部屋を繋いで拡張できるような仕掛けを盛り込みました。駅からは少し距離があって、不便な場所にあるにも関わらず、狙い通り自転車が好きな方で埋まっています。

最終的には部屋を繋いで拡張できる仕掛けも
最終的には部屋を繋いで拡張できる仕掛けも

 

アイデア豊富な建築家が必要とされる時代

――今後の賃貸、収益物件業界はどうなっていくと、岡田先生、土橋先生、山本先生は予想されますか?

 

岡田 僕が感じているのは、単身者が増えているということですね。若い人はもちろん、元気な高齢者も増えていて、皆さんが身軽になって、いわゆる賃貸の集合住宅に住みたいという人が増えていくことが予想されます。高齢者の場合は特に、周囲の人に関わっていきたいと思うでしょうから、共有スペースが充実した物件が求められるようになっていくのではないですかね。

 

土橋 所有しない意志を持つ方が増えていらっしゃいますよね。所有するよりも、上質な空間に住みたい。しかもそれが、一人暮らしを始めた、結婚した、仕事を変えた、子どもができたなど、ライフスタイルの変化によって、その都度、自分にとって心地よい空間も変わっていく。私たち建築家に求められるものも、さらにバラエティ豊かになっていくと予想されます。

 

山本 都心部の物件は、それなりに賃料が取れますけれど、郊外へ行ってしまうと、なかなか厳しいですよね。でも、これからはそういった場所に親から譲られた土地や建物が余っていく傾向にあります。そういう場所で賃貸を経営する場合、高い賃料をとることができないので、必然的にローコストで作っていかなければなりませんし、とはいえ、何らかの特徴付けをして、“ここに住みたい”と思わせる家を作っていかなければなりません。これから、ますますアイデア豊富な建築家が必要とされる時代がやってくるのは間違いありません。

 

取材・文/伊藤 秋廣 撮影(人物)/永井 浩 
※本インタビューは、2017年8月30日に収録したものです。