「建築家のデザイン」を取り入れたオンリーワンの物件で知られる神奈川の注文住宅大手タツミプランニングと、日本最大級の建築家ネットワークを作り上げたアーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)。本企画では、両社がタッグを組んで空室リスクの低減を狙う、「建築家のデザイン」を取り入れ収益貸物件の魅力を、第一線で活躍する建築家の方々に語っていただく。第2回目のテーマは、「建築家が手がける収益物件のデザインは何が違うのか?」である。

出会いをカタチにするのが、建築家の仕事

――一般的な、いわゆる「デザイナーズマンション」と建築家がデザインする収益物件の違いというのは、どのようなものなのでしょうか。

 

平野智司 氏
平野智司 氏

平野 結局、そこにしかない“一品=逸品”であることに尽きます。他を探しても、ひとつとして同じ物件はない。一期一会の出会いをカタチにするのが、建築家の仕事だと思っているのですよ。それは相続にしろ、購入したにせよ、その土地との出会いであったり、僕ら建築家と出会い、建設会社が入ってきたりと、様々な出会いの中からでしか生まれることのない“一品=逸品”が出来あがるのですよね。

 

世界中見渡してみても、山本さんがそこで作ったものはひとつしかないですし、岡田さんが作ったものも、やはりひとつなんですよ。オンリーワンを目指すために、最大限、敷地の魅力を引き出したい。だからグズグズ考えるんですよ。建築家って、ネチネチしていますよね(笑)。

 

山本 型にハマるものではないので、逆に“設計料をいただいて終わり”では済まない。クライアントであるオーナーさんにとっては、完成してからが本格的なスタートですからね。そこから先、5年、10年で終わりではなく、何10年にも渡って利益を生み続けてもらわなければならないので、どうしてもグズグス考える(笑)。

 

平野 長期に渡って利益を生み続ける物件を作るためには、どうしてもクライアントとの間のコンセンサスは重要ですよ。もちろん、お金をいただいていますから失礼な言い方はできませんが、収益物件の場合には“お客さんが好きなものを作る”という意識では失敗しますよと、やんわり伝えます。

 

結局、社会的に成熟して、それなりにビジネスで成功をしているのが建て主さんで、これからスタートして、成功していこうと考えているのが入居者なのです。だから、建て主さんの価値観を入居者に押し付けたら、絶対にうまくいかないですよと話をするのです。

 

いつまでも愛される、満室の物件であってほしい

――そういったご指摘に対して、クライアントの皆さんは理解を示してくださるのですか。

 

平野 そうですね。やはり、僕らのような建築家に依頼をしてくださる方は、けっこう聞いてくださいますね。“ふざけるな。俺が金出しているだろう”なんて言う人はいませんね(笑)。そもそも、そういう人から依頼を受けることがないですし、たとえ組んだとしてもうまくはいかないと思います。

 

山本健太郎 氏
山本健太郎 氏

山本 結局、クライアントさんとは長いお付き合いになります。引き渡した後も、たまにチェックしてしまうのですよ。“空きが出たのではないか?”とか。近くに行ったら、必ず見に行って、“外壁を塗り直したほうがいいんじゃないか”なんて。

 

とにかく、いつまでも愛される物件として満室でいてほしい。そういう思いは、建築家全員が強く持っていると思いますよ。そういった、愛着の部分はあまり表立っては見えないところかもしれませんけれど、それも大きな違いといえば違いなのかもしれません。

 

取材・文/伊藤 秋廣 撮影(人物)/永井 浩 
※本インタビューは、2017年8月30日に収録したものです。