中小企業の資金繰りを円滑にして、新たなサービス・製品開発の機会を生み出す――その一つの方法として、電子債権を活用した「POファイナンス(Perchase Order Finance)」の実証実験が中小企業庁の委託事業として進められている。カギとなる技術を擁しているのは、FintechベンチャーのTranzax株式会社。本連載では、実証実験のコンソーシアムに参画している金融機関の1つ、西武信用金庫の落合寛司理事長に伺ったお話をご紹介する。最終回のテーマは、金融機関の立場から見た「POファイナンス」普及への課題についてである。

早期資金化ニーズに応える「分割可能」な電子記録債権

――では、POファイナンスの実証実験に参加してみて、今後のTranzaxに期待することはりますか?

 

落合 期待というか、いかに企業の要望に柔軟に対応できるかが勝負だと思っております。今、製造業の利益率はどんどん下がってきています。海外の生産拠点も、人件費の向上で利益率が縮小してきている。

 

もちろん我々、金融機関の努力によって金利を低く抑えなくてはならないのですが、受注金額の全額でなく1割だけ現金化したいといった企業も出てくるでしょう。そういった利用者のニーズに対応できるようになれば、POファイナンスは広く活用されると見ています。

 

小倉 その点は、問題ありません。手形でしたら、1枚の手形を2枚に分割することはできませんが、電子記録債権は自由に分割することが可能です。今月は早期資金化のニーズはないけど、来月は入り要だから、受注額の半分を即現金化したいという要望があれば、すぐに対応できる体制を整えています。当社がすでにサービス化している一括ファクタリングでは、売掛債権の電子化を通じた債権の分割や、早期資金化ニーズへの対応をすでに実現していますから。

 

西武信用金庫理事長 落合寛司 氏(左)
Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏(右)
西武信用金庫理事長 落合寛司 氏(左)
Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏(右)

 

今後の課題は「認知度の向上」のみ⁉

――実証実験の中間報告を先日済まされていますが、そのときには参加企業から課題などを提示されていないのですか?

 

小倉 武州工業さんの会計システムの構築がようやく始まったところなので、データ連携は先のことになります。そのため、中間報告では参加金融機関の業務フローがこのように変わりますよ、という説明した程度なのです。今後、POファイナンスを実際に動かしてみると、新たな課題が見えてくるかもしれませんが、おそらく金融機関で表示される管理画面の「この項目を変更してほしい」といった細かい修正にとどまると考えています。

 

というのも、実証実験のキックオフの段階で、金融機関からはさまざまなイレギュラーな事態に対応するガイドラインの作成を依頼され、当社でかなり詳細なものを作り上げたのです。取引先が納期を守れなかった場合、発注金額が1億だったのに請求額が1億5000万円に膨れ上がった場合など、あらゆるイレギュラーケースを想定して、弁護士と相談の上、ガイドラインを作成してあります。

 

落合 あと、気になることといえば、公正取引委員会がTranzaxに口出してくることですかね(笑)。インターネットが典型例ですが、便利なサービスというものは1つに集約される傾向にあります。特に、POファイナンスに関してはTranzaxさんが特許を取得しているようなので、ほかの金融機関は“参加”はできても、独自のサービスとして提供することはできません。そうなると、POファイナンスが軌道に乗って、多くの企業が使いだした暁には、独占禁止法で取り締まられたり……。

 

小倉 むしろ、早く取り締まれるぐらい広く利用されるサービスにしたいですよ(笑)。

 

落合 そのためにも認知度の向上が課題となるかもしれませんね。発注書を電子記録債権化することのメリットと早期資金化ニーズへの対応を広く宣伝していかなくてはならないでしょう。ある親事業者がPOファイナンスを導入しても、その取引先のごく一部しか利用しなかったら意味がありません。ホワイト情報の蓄積ができないので、金融機関としてもメリットが生じなくなってしまいます。そうならないように、西武信用金庫としても取引先への宣伝を積極的に行っていく予定です。

 

小倉 みなさんのご協力に期待しております!

 

取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年8月16日に収録したものです。