信用金庫は相互扶助、利用者保護を目的とした協同組織
――POファイナンスの実証実験に傘下されている金融機関は、三井住友信託銀行、足利銀行、北陸銀行、北洋銀行、多摩信用金庫、西武信用金庫の6つ。なぜ、西武信用金庫は参加を決定したのでしょうか?
落合 同じ金融機関でも銀行と信用金庫はまったく異なります。銀行は株式会社で株主の利益を追及するものですが、信用金庫は地域の利用者が会員となって地域の活性化を図る相互扶助を目的とした協同組織。その取引先の多くは中小企業や個人です。POファイナンスは、西武信用金庫の主な取引先である中小企業の生産性を上げるうえで非常に有効だと思って参加を決定したわけです。
小倉 どうやって私たち(Tranzax)のことを知ったのですか?
落合 今回の実証実験に参加している板金加工などに強みのある武州工業さんが、西武信用金庫のお客さんで、武州工業さんから「西武さんも参加しませんか?」と話を頂いたんです。うちは新しいことに積極的に取り組んでいるので、武州さんは「西武信用金庫なら興味を持つだろう」と思ったようです(笑)。
――新しい取り組みとはどういうものなのでしょうか?
落合 いくつかありますが、最も特徴的なのは信用金庫として初めてコンサルティング機能を持ったことでしょうね。私が理事長に就任したのは2010年のことですが、就任当初から私は「経営環境は大きな変革期にある」ということを言い続けてきました。大きく2つの変化があったからです。
1つには、世界の経済の主役が先進国から新興国に変わったこと。安い労働力を求めて企業はこぞって新興国に生産拠点を移してしまい、先進国では産業の空洞化が進みました。その結果、高くてもいいものを作っていれば売れた時代から、安いものを作らないと売れない時代に変わったわけです。
もう1つは日本国内の問題。経済成長が続いた時代は終わり、成熟期を迎え、さらに少子高齢化の進展により衰退期に入ろうという変化が顕著に見られます。このような変革期では、既存のビジネスモデルは通用しません。安泰期は強い者が生き残りますが、変革期は変化に対応した者しか生き残れない。だから、私は原点に立ち返ってビジネスを見直したのです。先ほども話したように、信用金庫は相互扶助、利用者保護を目的とした協同組織。利用者を守るにはどうしたらいいか?と考えたすえに、たどり着いたのがコンサルティングだったのです。
「コンサルティング」で取引先の経営は変わる?
――信用金庫の方に経営のコンサルティングなどできるものなのでしょうか?
落合 失敗しました(笑)。私も中小企業診断士の資格を取って、一生懸命やってみたんですけど、うまくいかない。それで外部の専門家との提携を進めたのです。今では経営や会計の専門家を抱える2000の機関と提携して、3万人のコンサルタントを擁する「お客さま支援センター」がフル稼働しています。
小倉 やっぱり、コンサルティングを行うと取引先の経営は変わるものですか?
落合 コンサルタントを利用した取引先がどれだけ業績を伸ばしたかは細かく統計を取っていないのですが、軒並み業績が上向いているのは間違いありません。資金ニーズは元気なお客さんが増えるから、高まるもの。だから、西武信用金庫の融資額が右肩上がりを続けています。昨年度は1970億円も融資残が増えました。
これが、どれだけの金額かというと、今、東京に24の信用金庫がありますけど、80~90年もの社歴があるのに融資残が1000億円に達していない信用金庫が4つあるんです。全国には264の信用金庫がありますが、1000億円に達していない信用金庫が約43%を占める。それなのに、西武信用金庫は私が理事長に就任してから7年間で5550億円も融資残が増えているんです。おまけに預金に対して貸出の比率を示す預貸率は82%(前年度実績)。全国の銀行の預貸率は66%で、西武信用金庫が日本一高いんです。
小倉 それだけ貸し出しを行っていると、貸し倒れのリスクも高そうですけど……。
落合 そう思うかもしれませんが、延滞率はわずかに0.04%です。業界平均は0.8%ですから、これも群を抜いて低い数値。リスク管理債権という不良債権比率は1.32%でメガバンクと同じ水準なのですが、今期末には1%を切る見込みです。