中小企業の資金繰りを円滑にして、新たなサービス・製品開発の機会を生み出す――その一つの方法として、電子債権を活用した「POファイナンス(Perchase Order Finance)」の実証実験が中小企業庁の委託事業として進められている。カギとなる技術を擁しているのは、FintechベンチャーのTranzax株式会社。本連載では、実証実験のコンソーシアムに参画している金融機関の1つ、西武信用金庫の落合寛司理事長に伺ったお話をご紹介する。今回のテーマは、西武信用金庫の「取引先支援」の実際についてである。

金融機関が追求すべき真の「信頼」とは?

――なぜ、西武信用金庫は融資を伸ばしながら、貸し倒れリスクを低く抑えることができるのですか。他の金融機関よりも金利が低いのでしょうか?

 

西武信用金庫理事長 落合寛司 氏
西武信用金庫理事長 落合寛司 氏

落合 むしろ、金利は高めです。私は10年後には店舗がなくなってネットに集約されると予想しながらも、新たな顧客開拓のために現在は積極的に店舗数を増やしています。そのうちの店舗の1つは半径2.5km以内に30以上の銀行が密集している激戦区なのですが、そのエリアにおける平均貸出金利は0.4~0.6%。一方で、西武信用金庫の店舗では1年半で200億円の融資を行っているのですが、平均金利は2%を超えているんです。

 

小倉 その金利差はかなり、大きいですね。

 

落合 西武信用金庫はその金利差以上の支援を取引先に対して行っている自負があります。そもそも、金融機関は「信用」と「信頼」について間違えた認識を持っています。信用と信頼を一緒くたにして、「うちは信用がある」とタカをくくっている。でも、実際は「信用はあっても、信頼されていない」のが金融機関。ある銀行にお金を預けたら、そのお金が盗難されても銀行が保証してくれるでしょう。これは「信用」です。

 

でも、ある企業の資金繰りが悪化しても、銀行に借りに行こうとはなかなか思いません。銀行は「雨の日に傘を貸さない」と言われるように、苦しんでいる企業を支援するどころから融資を引き上げてとどめを刺すことさえある。つまり、「信頼」はされていないんです。

 

苦しい企業の支援を「リスク」ととらえない理由

小倉 信用はあっても信頼はない、というのは非常に面白い指摘ですね。

 

落合 だから、西武信用金庫は「何でも相談に来て」と取引先にアピールし続けてきたんです。確かに土砂降りの中、小さな傘を貸してもずぶ濡れになるかもしれません。医者も匙を投げかねない。けど、小降りの時なら大いに傘が役立つ。多少風邪をひいたぐらいなら、すぐに治療できます。つまり、本当に危なくなる前に、まず西武信用金庫に相談して、というスタンス。そして、その相談に応えられる体制を「お客さま支援センター」として整えてきたわけです。

 

苦しい企業を支援するリスクを指摘される銀行マンもいますけど、西武信用金庫は全然リスクと思っていない。なぜなら、“直す力”があるんですから。もちろん、リスク管理もしっかりやっています。西武信用金庫は過剰なほど貸倒引当金を積んでいるんです。これは、リーマン・ショックなどの世界的な金融不安が起こった場合を想定しているからです。

 

Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏

小倉 それは、銀行じゃできない会計処理ですよね? 引当金を積むことによって利益が圧縮されてしまうので、投資家はカンカンに怒るでしょう。

 

落合 そうなんです。西武信用金庫の場合は監査法人から強硬に反対されました。「危ない企業があるから、こっそり引当金を積んでいるんじゃないか?」と。金融危機が起こった場合に不良債権化するリスクがあるなら、それは不良債権じゃないか?とも。しかし、相互扶助を目的とする協同組織としての信金のあり方を説明したら、最終的には金融庁まで西武信用金庫を理解してくれました(笑)。

 

――それだけ、融資を伸ばして、地域の活性化に貢献しているという実績もあったからかもしれませんね。

 

落合 それはあるかもしれません。西武信用金庫はお客さまの資本政策もやっていて、自己資本の足りない優良企業にどんどん出資しています。取引先のビジネスマッチングも積極的に行っており、昨年度は9000件を超えました。コンサルタントを派遣した取引先は1年間で3000社以上。このほかにも産学連携支援や海外展開の支援、投資・M&Aの支援なども行っているんです。

 

取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年8月16日に収録したものです。