中小企業の資金繰りを円滑にして、新たなサービス・製品開発の機会を生み出す――その一つの方法として、電子債権を活用した「POファイナンス(Perchase Order Finance)」の実証実験が中小企業庁の委託事業として進められている。カギとなる技術を擁しているのは、FintechベンチャーのTranzax株式会社。本連載では、実証実験のコンソーシアムに参画している金融機関の1つ、西武信用金庫の落合寛司理事長に伺ったお話をご紹介する。第5回目のテーマは、西武信用金庫が見出した「POファイナンス」の可能性についてである。

貸出先を広げるために大切な「ホワイト情報」の蓄積

――西武信用金庫はPOファイナンスの効果をどのように評価されているのですか?

 

西武信用金庫理事長 落合寛司 氏
西武信用金庫 理事長 落合寛司 氏

落合 西武信用金庫にとっての最大のメリットは“ホワイト情報”を蓄積できる点にあると考えています。POファイナンスは発注書を電子記録債権化することによって、それを担保にした融資を可能にする仕組みです。その発注書には数量から単価、納期などが細かく記されている。今までの我々はそのような細かい情報を把握せずに、取引先の前期実績などから大まかな融資枠を設定して資金を供給してきましたが、今後は取引の詳細を把握したうえで融資が実行できるようになるわけです。

 

この効果は非常に大きい。取引先はしっかり納期を守っているか、不良品を作っていないかということまで把握できる。日本の金融機関は“ブラック情報”を集めることに躍起になっていますが、我々の仕事は資金を供給して企業や地域の支援を行うこと。貸出先を広げるためのホワイト情報のほうがはるかに大事なのです。

 

小倉 手形だと、情報が非常に限られているんですよね。手形法によって、厳密に手形項目が決められている。振出人や金額、裏書人といった限られた情報しか盛り込めない。仮に、発注内容の詳細などを書き込もうものなら、手形でなくなってしまうのです。その点、電子記録債権は電子記録債権機関が扱っている限り、どんな情報を盛り込んでも問題ありません。

 

「融資残高の増加」も見込めるPOファイナンスの可能性

Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志 氏

落合 金融機関に情報が筒抜けになることを嫌がるお客さんもいるかもしれませんが、実際にはメリットのほうが大きいでしょうね。銀行につなぎ融資をしてもらったのに、発注者に納品した製品が検収に合格しなかったとしましょう。そうすると中小企業は、銀行に納品が遅れる旨を説明して、返済を先延ばしにしてもらうよう交渉しなくてはなりません。

 

しかし、POファイナンスなら発注書を電子記録債権化した段階で、それを担保に差し出すことで受注額の半額に相当する資金を銀行から融資してもらえるようになる。残りの半額は納品・検収を経て売掛債権が確定した段階で現金化できるようになりますが、発注書の電子記録債権化の際に、「検収に合格しなかったら資金化を先延ばしにする」という条件を付けくわえたりすることもできるでしょう。

 

そうなれば、中小企業はいちいち銀行に頭を下げに行く必要もなくなる。資金調達コストというのは、必ずしも金利だけではないんです。交渉に要する時間も非常に大きなコスト。この時間を圧縮できれば、企業は製品の質の向上に努める余裕も生まれます。当然、生産性も上がって、不渡りを出すようなリスクは下がっていく。

 

――取引先の生産性向上と同時に、西武信用金庫としてもホワイト情報の蓄積により、効果的な融資が実行できるようになると。

 

落合 もちろん、取引先にとっては決済スピードの向上、資金繰りの効率化といったメリットもあります。同時に、取引先および西武信用金庫の事務負担軽減というメリットもある。Tranzaxさんが発注書の電子記録債権を担い、西武信用金庫はその債権を担保に融資を行うだけですからね。当然、融資残高の増加も見込めるでしょう。

 

取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年8月16日に収録したものです。