会社で責任ある立場を任されても、自分の努力だけでは解決できない問題に直面することがあります。目標未達の責任を問われ、上司から無理な要求まで突きつけられたら、どこまで応じるべきなのでしょうか。収入や役職を失うことへの不安がある一方、納得できない指示に従い続けることにも限界があります。働き続けるうえで、見過ごせない問題を考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「無茶言うなよ…」月末最終日、未達の責任を押しつけられた〈年収850万円・48歳課長〉、報告書の代わりに上司に突きつけた退職届 ※写真はイメージです/PIXTA

「数字を合わせろ」上司の無理な要求に、48歳課長は言葉を失った

「無茶言うなよ……。こっちの努力だけで、どうにかなる話じゃないだろ」

 

月末最終営業日の午後、営業課長の伊藤大輔さん(仮名・48歳)は、上司の言葉を聞きながら、思わず心の中でつぶやきました。年収は850万円。部下を抱え、営業成績の管理や取引先との調整を担ってきました。決して仕事を投げ出すタイプではありません。

 

その日、伊藤さんが提出を求められていたのは、月間売上の実績と未達の理由をまとめた報告書でした。ところが、課の売上は目標に届いていません。大口取引先からの受注が、先方の社内手続きの遅れで翌月にずれ込んでいたためです。伊藤さんは事前に状況を報告し、翌月の売上見込みにも反映させていました。

 

しかし上司は、報告書を前にこう言いました。

 

「このままじゃ、役員会議で説明がつかない。何とか数字を合わせてくれ。課長なんだから、未達の責任は取ってもらわないと困る」

 

伊藤さんは、受注が確定していない案件を売上実績として計上することはできないと説明しました。売上の計上時期を変えれば、帳尻は合うかもしれません。しかし、実態と異なる数字を報告すれば、後になって問題になる可能性があります。

 

「受注が決まっていないものを、実績として報告するのは無理です。見込みと実績は分けて説明させてください」と答えると、上司は不機嫌そうに「できない理由ばかり並べるな。管理職なら、どうにかする方法を考えるのが仕事だろう」と言い放ったといいます。

 

伊藤さんは、それ以上言い返せませんでした。取引先の判断を変えることも、会社全体の売上目標を見直すことも、自分一人で決められるわけではありません。それでも、未達の責任だけは自分に負わせようとしている。そう感じていました。

 

厚生労働省『令和7年労働安全衛生調査(実態調査)』によると、仕事や職業生活で強い不安やストレスを感じている労働者のうち、その内容として「仕事の失敗、責任の発生等」を挙げた人は39.5%。「仕事の量」と並んでもっとも多いストレス原因でした。仕事の負担は業務量だけで決まるものではなく、失敗したときに誰が責任を負うのかという問題も、働く人のストレスにつながっています。

 

伊藤さんも、これまで何度も未達の理由を説明し、改善策を出してきました。部下の案件に同行し、取引先との関係を立て直し、翌月の売上につながる商談も進めてきたつもりです。それでも、最後に求められるのは、現場では動かせない数字を何とかすることだったのです。