「帰省するのは年に数回でしょう」夫婦が娘に伝えた本音
娘の反対を受け、隆志さん夫婦は一度、売却の話を保留にしました。
しかし、数ヵ月後、明子さんが2階の掃除中に階段で足を滑らせそうになったことがありました。けがはありませんでしたが、手すりにつかまりながら階段を下りる妻を見て、隆志さんは今後の暮らしを改めて考えたといいます。
「この先、もっと年を取ったら、家の管理はどうなるんだろうと思ったんです」
夫婦は再び真理さんに相談しました。
「お前たちが帰ってくるのは年に数回だろう。そのために、これからもずっと広い家を維持するのは大変なんだよ」
真理さんはしばらく黙っていましたが、明子さんが庭の手入れや階段の負担について説明すると、少しずつ考えが変わったそうです。
「そんなに大変だとは知らなかった。お母さん、前は庭仕事が好きだったから」
結局、夫婦は自宅を約1,600万円で売却。諸費用を差し引いた資金と貯蓄の一部を使い、駅やスーパー、病院に近い中古の2LDKマンションを購入しました。
新居はエレベーター付きで、日常の買い物は徒歩で済ませられます。
「今は掃除もすぐ終わるし、庭の草取りもありません。出かけるのも楽になりました」
明子さんは、以前より気軽に外出できるようになったと話します。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、60歳以上の人が現在の住まいで感じている問題として、「住まいが古くなり、いたんでいる」が29.5%、「家賃、税金、住宅維持費など住宅に関する経済的負担が重い」が15.5%、「住宅が広すぎる」が10.4%でした。
住み替えから半年後、真理さん一家が新居を訪ねてきました。
「前の家より狭いけど、駅から近いし便利だね」
そう話す娘に、隆志さんは笑って答えました。
「俺たち2人には、これくらいで十分なんだよ」
真理さんも、実際に新しい住まいを見て、両親の選択に納得したようです。
「最初は寂しかったけど、お父さんとお母さんが暮らしやすいなら、それが一番だね」
長年暮らした家を手放す際には、家族それぞれの思いが異なることもあります。特に子どもにとっての実家は、帰省先であると同時に、幼いころの記憶が残る場所でもあります。
一方、高齢期の住まいでは、建物の維持費や日常の管理負担、買い物や通院の利便性などを考える必要があります。住み替えを検討する際には、家族の希望も聞きながら、実際に暮らす人が今後も無理なく生活できる環境を選ぶことが大切でしょう。
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