「お願い、今すぐ来て」母からの電話に、息子が駆けつけると
52歳の健司さん(仮名)は、妻と高校生の息子と暮らす会社員です。実家までは車で1時間半ほど。83歳の母・千鶴さん(仮名)は、父が6年前に亡くなってから一人暮らしを続けています。
千鶴さんの年金は月約12万円。住宅ローンを完済した戸建てに住んでおり、生活費に大きな不自由はないと聞いていました。
健司さんは月に2、3回ほど母と電話で話し、2ヵ月に1回程度は実家を訪ねていました。
「困ったことがあったら言ってよ」
そう伝えても、千鶴さんはいつも「大丈夫よ。まだ自分のことくらいできるから」と答えていたといいます。
ところがある平日の午後、仕事中の健司さんに母から電話がかかってきました。
「お願い、今すぐ来て。どうしたらいいか分からないの」
普段は落ち着いている母の声が震えています。
「どうしたの? 具合が悪いの?」
「違うの。家の中が大変なことになってて……」
詳しい事情を聞こうとしても、千鶴さんはうまく説明できません。健司さんは上司に事情を伝えて早退し、急いで実家へ向かいました。
玄関の鍵は開いていました。声をかけながら家に入ると、廊下には段ボール箱がいくつも積まれています。
さらに居間へ進むと、健司さんは言葉を失いました。床には衣類や新聞、通販で購入したらしい日用品が広がり、テーブルの上には未開封の荷物が山積みになっていたのです。
以前はきれいに片付いていた部屋が、足の踏み場もない状態でした。
「母さん、これどうしたの?」
千鶴さんは居間の隅に座り込み、困り果てた様子でした。
「片付けようと思って箱を動かしたら、棚のものが落ちてきて……。もう、どこから手をつけたらいいか分からなくなっちゃった」
幸い、千鶴さんにけがはありませんでした。しかし健司さんが驚いたのは、散らかった部屋だけではありません。
台所にも使っていない調理器具や食品の箱が積まれ、廊下の一部は横向きにならなければ通れないほど狭くなっていました。
「2ヵ月前に来たときは、こんな状態じゃなかったよね?」
「見えるところだけ片付けていたの。奥の部屋に置いていたものを出したら、戻せなくなって……」
千鶴さんは、以前から少しずつ物の整理が難しくなっていたことを打ち明けました。
