「ここなら毎日が楽しいぞ」夫の希望で始めた古民家暮らし
「夫はずっと田舎暮らしに憧れていたんです。私は正直、そこまで乗り気ではありませんでした」
そう話すのは、70歳の良子さん(仮名)です。
夫の則夫さん(70歳・仮名)とは結婚45年。長年、首都圏のマンションで暮らしていましたが、半年前、地方の古民家へ移住しました。
夫婦の年金は合わせて月約21万円、貯蓄は約1,800万円。住宅ローンを完済したマンションを売却し、その代金の一部で築50年ほどの古民家を購入しました。
移住を強く希望したのは則夫さんです。
「定年してから、毎日家にいるのもつまらなくてね。庭で野菜を育てたり、古い家を自分で直したりして暮らしたかったんです」
則夫さんは以前から家庭菜園やDIYが趣味でした。休日には地方の物件を探し、気になる古民家があれば夫婦で見学に出かけていたといいます。
良子さんも、庭のある家で暮らすこと自体は悪くないと思っていました。
「夫があまりに楽しそうに話すので、私も住んでみれば好きになるかもしれないと思ったんです」
購入したのは、地方都市の中心部から車で30分ほど離れた集落にある一軒家。庭が広く、近くには畑や山が広がっています。
古民家の購入費用は約650万円。さらに水回りや屋根の一部補修などに約350万円をかけました。マンションの売却代金で購入・改修費用を賄い、手元には約1,800万円の貯蓄が残りました。
引っ越した当初、則夫さんは毎日のように庭へ出て、畑を耕したり、物置を修理したりしていました。近所の男性ともすぐに親しくなり、野菜作りの話で盛り上がるようになります。
「今日は隣の人に苗をもらったよ」
「今度、一緒に草刈りをすることになったんだ」
夕食のたびに楽しそうな話をする夫を見て、良子さんも最初は安心していました。
ところが3ヵ月ほど経ったころから、良子さんの気持ちに変化が生じます。
以前は近所の友人とランチに出かけたり、週に1回の体操教室に通ったりしていました。しかし、移住先には気軽に会える知人がいません。
スーパーまでは車で20分ほど。良子さんも運転免許は持っていますが、知らない道を運転することに不安があり、買い物は夫と一緒に行くことが増えました。
「夫は庭仕事をしていれば一日が終わるんです。でも私は、家事が終わるとすることがなくて……」
夫婦で始めたはずの新生活でしたが、良子さんは次第に家の中で過ごす時間が長くなっていきました。
