「紀州のドン・ファン」遺産13億円を田辺市に寄付する遺言は有効と確定…それでも遺産“全額”が田辺市のものになるとは限らない理由【弁護士が解説】

「紀州のドン・ファン」遺産13億円を田辺市に寄付する遺言は有効と確定…それでも遺産“全額”が田辺市のものになるとは限らない理由【弁護士が解説】
※画像はイメージです/PIXTA

「紀州のドン・ファン」の遺産13億円を田辺市に寄付する遺言は有効とする民事裁判が確定しました。しかし、これで全額が田辺市のものになるとは限りません。配偶者には奥の手となる「最低限の取り分」があり、その行方は今なお続く刑事裁判の結論に左右されるからです。遺言と遺留分、そして「もう一つの裁判」の関係を弁護士の松田昌明氏が解説します。

刑事裁判の結論に左右される遺産の行方

刑事裁判の結論別に見ると、遺産の行方は次のとおり整理されます。

 

最高裁への上告が棄却されれば無罪が確定します。一方、最高裁が原判決を破棄した場合は、審理がやり直され、結論の確定までさらに時間がかかります。

【結論別ケース①】妻の無罪が確定した場合

妻には相続人としての資格が認められることになり、遺留分を請求できる可能性が高くなります。13億円を基準にすると概算で約4億9千万円(13億円×8分の3)ですが、債務の有無や生前贈与などによって金額は変わります。

【結論別ケース②】妻の有罪が確定した場合

妻は欠格事由に該当することになり、相続人の資格とともに遺留分を請求する権利も失います。その結果、遺産は遺言通り全額が田辺市へ寄付されることになるでしょう。

 

ただし、改正前の遺留分減殺請求権(現行の遺留分侵害請求権も同様)には「知った時から1年以内、相続開始から10年以内」という期限があり、報道からは明らかではありませんが、すでに権利行使の意思を表明している必要があります。

この事件から読み取れる遺言の教訓

この事件から読み取れる一般的な教訓は2つあります。

【教訓①】 全財産を相続人以外に遺す場合の遺留分への備え

1つ目は、全財産を相続人以外に遺す場合の遺留分への備えです。兄弟姉妹を除く相続人には、法律上「最低限の取り分」として遺留分が認められています。遺言が有効でも、現行法では、配偶者などが遺留分を請求すれば、金銭を支払う必要が生じかねません。

 

遺言者の意思を確実に実現するには、遺留分に相当する額をあらかじめ予想してこれを受け取れるように配分すべきでしょう。また遺留分の請求に対して現金で支払える財産構成にしておくといった工夫も有効です。加えて、遺言書を遺すときに、「なぜこの内容にしたのか」を付言事項として書き残すことも考えられます。

 

法的な拘束力はありませんが、親族の納得を得やすくなり、争いの予防につながることがあります。

【教訓②】偽造を疑われにくい遺言方式の選択

2つ目は、偽造を疑われにくい遺言方式の選択です。

 

自宅で保管する自筆証書遺言は、その筆跡や作成の経緯をめぐって争いになりやすい方式です。公証人が関与し、原本が公証役場に保管される公正証書遺言、あるいは本人が法務局に出向いて預ける自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、改ざんや紛失のリスクを大きく減らせますし、その有効性が問題になるリスクが減ります。

 

ただ、遺言能力の有無や遺留分の問題までが解消されるわけではありません。

 

遺言は遺された家族たちに争いを残さないことが何より大切です。遺言は、“遺された者たちへのラブレター”とも言われます。早めに専門家に相談し、争いを残さない遺言を作って備えましょう。

 

 

松田昌明

六甲法律事務所

共同経営弁護士・弁理士

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