遺言は裁判で有効で確定。しかし…
2026年9月30日、最高裁判所は、「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さんの遺言書をめぐる裁判で、親族側の上告を棄却しました。
これにより、「全財産を田辺市に寄付する」という内容の遺言書を有効とした一審(和歌山地裁)・二審(大阪高裁)の判断が確定しました※。
※ただ、最高裁は「上告理由に当たらない」として退けたもので、遺言の有効性について新たな判断を示したわけではありません。
裁判で争われた点は、遺言書が本人の筆跡かどうかでした。遺言書は2013年2月8日付で、赤ペンで手書きされた紙1枚。親族側は偽造だと主張しましたが、2024年6月21日、和歌山地裁は本人の筆跡として遺言書を有効と判断、2025年9月19日、大阪高裁もこれを支持しました。
一審の和歌山地裁は、筆跡鑑定による結果に加え、野崎さんが生前、田辺市に1,000万円以上のお金を寄付し、今後も寄付をする意向を示していたことも考慮されています。
では、13億円余りにのぼると言われる遺産は、これですべて田辺市のものになるのでしょうか。
実は、そう単純ではありません。ここでカギを握るのは、遺言をめぐる民事裁判とは別のもう一つの裁判です。
遺言が有効でも残る「妻の取り分」と、もう一つの裁判
遺言書が有効なものと確定したため、このままいけば遺産は遺言書にしたがって全財産が田辺市へと寄付されることになる可能性が高いでしょう。
しかし、野崎さんに対する殺人事件の被告人となっている妻は、配偶者として法律上の遺留分という権利を有しています。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・直系尊属)において、法律上、最低限保障される取り分です。そのため、妻が法定相続人としての地位を有する限り、この遺留分を請求することができます。
仮に遺言がないとしたら、野崎さんには子どもがおらず、両親も亡くなっているため、民法が定めている相続分は妻が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。妻の遺留分は、その法定相続分の2分の1にあたる8分の3となります。
これに対して、兄弟姉妹には遺留分は認められていませんので、ほかの親族には遺留分は認められません。この点からも、兄弟姉妹にとっては、遺言書が有効かどうかが決定的に重要となります。
なお、野崎さんが亡くなったのは2018年5月であり、2019年7月に施行された改正民法より前となります。そのため、現在の民法上のルールである「遺留分侵害額請求」ではなく、改正前の「遺留分減殺請求」のルールが適用されます。
ところが、妻は野崎さんに対する殺人罪などで起訴されました。
民法891条は、「故意に被相続人…を死亡するに至らせ…たために、刑に処せられた者」を相続人としての地位を失う欠格事由としています。もし妻が野崎さんに対する殺人罪の裁判で有罪が確定すれば、相続人としての資格を失い、遺留分を請求する権利も失うこととなります。
妻の刑事裁判の状況は次のとおりです。
2024年12月、和歌山地裁は裁判員裁判によって無罪を言い渡し、2026年3月23日、大阪高裁も一審を支持して検察側の控訴を退けました。これに対して検察側が4月6日に上告し、現在は最高裁で審理されています。
では、刑事裁判の結論次第で、野崎さんの遺産13億円はどうなるのでしょうか。
