相続税はかからないはずなのに、税務署から連絡が…
「この遺産の額なら、相続税はかからない」
母親が亡くなって数ヶ月後、遺品整理のために地方都市の郊外にある実家を訪れていた
Aさん(60歳・会社員)は、胸をなでおろしていました。
Aさんの母親は、亡き父親が建てた一軒家に一人で暮らしていました。母親が持っていた財産は、自宅と、近くの金融機関にある預金口座が2つと、少しばかりの手元の現金だけ。すべて合わせた遺産の総額は3,000万円で、「相続税がかかるボーダーライン」を下回っていることが確認できました。
相続税が非課税になる遺産の金額は、家族構成によって変わります。
・相続人が2人の場合:4,200万円まで税金ゼロ
・相続人が3人の場合:4,800万円まで税金ゼロ
自宅や預金の名義変更も済ませ、母が亡くなって3回目の夏が過ぎようとしていた頃。
Aさんの自宅に一本の電話が鳴ります。
「3年前にお亡くなりになったお母様のご相続の件でお伺いしたい点がございます。お手数をおかけして大変恐縮なのですが、ご都合のよろしい日時に税務署までお越しいただくことは可能でしょうか」
電話の相手は税務署でした。
「母の遺産は相続税がかからない範囲の金額だったはず。それなのに税務署からの連絡が来るなんて……」
戸惑いながら迎えた税務署への訪問で、Aさんは思いがけない言葉を聞かされます。
「10年前、お母様から相続時精算課税制度を利用して2,000万円をお受け取りですよね? この2,000万円を足し戻した額が相続財産になりますので、A様は相続税を納める必要があるかと思われます」
「相続時精算課税」?
まったく聞き覚えのない言葉でしたが、Aさんは2,000万円という金額に心当たりがありました。
将来の「足し戻し」が条件の生前贈与だった
Aさん:「その2,000万円は母が手続きしてくれた生前贈与で、私が正式にもらったんですよ。それなのに母の財産に足し戻して考えるなんて…。これじゃまるで、贈与そのものを取り消されているみたいじゃないですか」
税務署:「贈与した事実を取り消すわけではありません。ただ、この相続時精算課税というのは、相続のときには必ずその財産を足し戻した額を相続財産として税金を計算・精算する、という前提で行われる贈与なのです」
Aさん:「じゃあ、この2,000万円を加えた額が母の相続財産になるとすると、相続税がかかる限度額を超えているということになるんですね」
税務署:「はい。今から相続税の申告をして、税金を納めていただく必要があります」
「母さんはこういう事態を想像していたのだろうか。ただ、生前に『私が亡くなったあとのこと』として注意点をいろいろ聞いていたような気がする。すっかり忘れていたな……」
深いため息とともに、Aさんは税務署をあとにしました。
