※写真はイメージです/PIXTA
仕事一筋の52歳父、家での役割がない
それから大輔さんは、自分が家で何をしているのかを意識するようになりました。
朝は仕事。
昼も仕事。
仕事が終われば、自室でスマートフォンを見る。
休日はテレビを見るか、仕事のメールを確認する。
家族から見れば、「家にいるけれど、家のことは何もしない人」です。
一方で、大輔さんには「仕事をしているのだから仕方ない」という感覚がありました。このズレは、長年の生活習慣から生まれたものでした。
厚生労働省『令和7年労働安全衛生調査』では、仕事や職業生活について強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある労働者は67.5%。ストレスの内容では「仕事の量」が39.5%で、「仕事の失敗、責任の発生等」とともに同率トップ。50代の働く男性にとっても、仕事上の責任が軽くなるとは限りません。
大輔さんも、会社では責任のある立場です。部下の相談を受け、取引先とのトラブルにも対応する。会社では「いてくれないと困る」と言われます。だからこそ、自宅に戻ったときに何をすればいいのか分からなくなっていました。
そして、あの日曜日です。布団の中にいた大輔さんのところへ、智子さんが来ました。
「朝ご飯、どうする?」
「いらない」
智子さんは少し黙ってから「お父さん、家にいるだけ邪魔って言われて、そんなに気にしてるの?」と尋ねても、大輔さんは答えなかったといいます。そんな姿を見て、智子さんは「私だって、ずっと家にいる人に合わせて生活するのは疲れるよ」と言って、部屋を出て行ったそうです。
そこで初めて、大輔さんは、仕事中心の生活を長く続けてきた結果、家の中での自分の役割を作らないまま、家にいる時間だけが増えていた事実を理解したといいます。
大輔さんは昼前になって、ようやく布団から出ました。自由になったその日の昼食は自分で作りました。
大した料理ではありません。冷蔵庫にあったものを使って、簡単に済ませただけです。
陽菜さんが「お父さん、自分で作ったの?」と聞きました。
「そうだよ」
「じゃあ、今度は私にも作って」
以前なら腹を立てていたかもしれません。でも、その日は「オーケー」と答えました。
国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によれば、50代夫の平日平均家事時間は39分と全年代で最短でした。長年、家事を妻に頼ってきた男性が家庭での役割を獲得するには、料理などの日常的な作業から関わることもひとつの手。自ら一歩踏み出し「作る側」へと変わる姿勢が、家族との良好な関係を再構築する第一歩となるかもしれません。
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