企業の急激なデジタル化に伴い、長年の経験と泥臭い調整力で会社を支えてきたベテラン社員が居場所を失う――最新技術を駆使する若手が台頭するなか、中高年社員はどのように自身の価値を再定義すべきでしょうか。ある40代会社員が直面した事例から考えます。
「俺の25年は何だったんだ…」〈年収680万円・47歳会社員〉タイパ重視の26歳若手の発言に絶句…2週間後、ベテランに待ち受けていた「悲惨な役回り」 ※写真はイメージです/PIXTA

若手社員が起こした大炎上とベテラン社員に求めるもの

翔太さんの発言から2週間後、彼が主導するプロジェクトで重大なトラブルが発生しました。AIが出力した合理的なスケジュールやデータのみに依存し、長年の取引先が抱える特有の商慣習、現場の感情面を一切考慮せずに計画を推し進めた結果起きたものでした。

 

「現場を無視している!」

 

主要取引先から猛抗議を受け、プロジェクトはストップしました。

 

事態の収拾を命じられたのは、伊藤さんでした。

 

「……なんでこんな時ばっかり。俺の25年は、何だったんだろう……」

 

伊藤さんはそう漏らしました。

 

2週間前には、全社員の前で「根回しや泥臭い現場の事前調整なんて、タイパが悪すぎる」と言われたばかりです。それなのに今、自分がその「泥臭い調整」に駆り出されています。

 

伊藤さんは取引先のキーマンに連絡を取り、直接出向いて謝罪しました。長年の取引経緯を振り返りながら相手の事情を聞き、社内の関係部署とも調整。代替案をまとめるまで、3日間かかりました。

 

ようやく取引先の了承を得て、プロジェクトは条件付きで再開。事後報告の場で、営業部長は伊藤さんに告げました。

 

「データ分析は若手に任せればいい。今回のような取引先との調整はよろしく頼むよ」

 

伊藤さんは、黙ってうなずきました。

 

AIの導入で、これまで人が担ってきた業務の一部が効率化される一方、すべての業務が同じように置き換わるわけではありません。

 

厚生労働省『令和5年版 労働経済の分析』でも、企業が労働者に求める能力として、約7割〜8割の企業がコミュニケーション能力や対人調整力などを挙げています。

 

AIを使って処理できる仕事が増えるほど、人との交渉や調整など、データだけでは判断しにくい仕事との違いもはっきりしてくるでしょう。伊藤さんが25年間培ってきた経験も、今回のトラブル対応ではそのひとつだったようです。