(※画像はイメージです/PIXTA)

台風や集中豪雨、地震をはじめとした自然災害は、いつ、どこで起こるかわかりません。店舗や工場自体は大きな被害を免れたとしても、停電や断水、交通網の寸断、物流の停止、社員が出勤できないといった理由で、突然営業不可能な状態に陥ることも。こうした非常時に、重要な事業をできるだけ止めず、あるいは止まってしまった事業をできるだけ早く再開するための備えが、BCP(事業継続計画)です。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

BCPとは? 小さな工夫から始める事業継続のための備え

BCP(事業継続計画)というと、大がかりな計画を思い浮かべるかもしれません。しかし、大規模な投資をせずとも、小さな工夫で被害を抑えられることもあります。

 

たとえば、中小企業庁の2019年版小規模企業白書では、岐阜県下呂市の「丸田屋生花店」の事例が紹介されています。同店は、過去の水害で床上浸水した経験から、生花用冷蔵庫などの配線やコンセントを高い位置へ移すなどの対策をしました。その後、再びの豪雨で床上浸水の被害を受けましたが、主要な電気設備は被害を免れ、翌日には営業を再開することができました。

 

「ぬれると困るものを上へ移す」というのは、非常にシンプルな対策ですが、このような小さな工夫もBCPの一環です。自治体などから提供されるハザードマップを見ながら、「水がここまで来たら何が使えなくなるか」「停電したら何がいちばん困るのか」などと考えると、必要な備えが見えてきます。

 

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「その人しかわからない」という事業継続のリスクに備える

設備への備えだけでなく、「人が急に動けなくなったときにどうするか」を想定し対策することも、事業継続のための大切な備えです。

 

たとえば、社長のお母さまが経理を担当していたある会社では、お母さまが急に入院されたことで、社内の誰も帳簿や通帳の場所がわからないという事態に。さらに確認を進めるなかで、十分に共有されていなかった会社の負債などもわかり、経営はますます混乱を極めたといいます。

 

このように、小さな会社やお店ほど、一つの拠点、一人の経営者、一人の担当者に仕事や情報が集中しがちです。災害に限らず、「その人しか知らない」、「その人がいないと判断できない」、「どこに何があるかわからない」という状態は、事業継続におけるリスクになります。すべてをマニュアル化する必要はありませんが、重要な契約、銀行口座、取引先、業務に欠かせないデータなどは、「誰がわかるのか」、「どこを見ればわかるのか」を事前に整理しておくことが望まれます。

 

また、経営者自身が不在の場合に、誰が代わって判断するのかも決めておきたいところです。社長と連絡が取れないだけで対応が止まってしまう状態は、できるだけ避けたいものです。

 

私自身も会社を経営しています。以前、足を骨折した際は、外出の仕事をオンラインに切り替えるなどによって、仕事に穴をあけることなく続けることができました。しかし、入院などで自分から連絡することさえできなくなったら、その間事業はどうなってしまうのか……。これは他人事ではありません。

 

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「いつ判断し、どう伝えるか」を決めておく

非常時には、情報が十分にないなかで判断することもあります。だからこそ、「誰が、いつまでに判断し、誰に伝えるか」を決めておくことが大切です。

 

ある学習塾では、コロナ禍に休校対応をとる場合の判断時刻や連絡方法を明文化しました。その際、コロナへの対応だけでなく、暴風警報や暴風雪警報が発令された場合の対応も同時に決め、生徒に配布する「利用の手引き」に記載したといいます。

 

「何時までに休校を判断するか」、「誰が連絡するか」、「生徒や講師への連絡手段」を事前に取り決めることで、経営者だけでなく、生徒や講師の混乱を避けることができます。

 

また、台風が接近する際、前日のうちに翌日の休業を決める会社もあります。判断を延ばせば、結果的に社員を危険にさらすことにもなりかねません。社員の身の安全を第一に考えた「迅速な判断」も、人を大切にする経営姿勢の一環であり、BCPの一つだと思います。

 

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「全部を守る」のではなく、「何を守るか」を見極める

非常時にすべてを守ろうとすると、かえって何も判断できなくなることもあります。

 

そこで大切なのが、「何を止めないか」、「一時的に止めてもよいものは何か」を平時に考えておくことです。たとえば、店舗営業はできなくても、お客様への連絡は続けられるかもしれません。すべての商品は届けられなくても、主要な商品や一部の商品だけなら供給できるかもしれません。すべての業務を続けるのではなく、事業をつなぐために必要な仕事を見極めることが重要です。

 

中小企業庁の2025年版小規模企業白書では、山形県の製造業「アイ・エム・マムロ株式会社」が、BCP策定を通じ「自社でなければできない仕事か」という視点から、事業や工程を見直した事例が紹介されています。納品ルートや、代替となる仕入先・外注先、最小限の人員体制を検討した結果、非常時への備えだけでなく、平時の業務効率化にもつながりました。

 

小さな会社が、人材・設備・資材をすべて自社だけで賄うには限界があります。だからこそ、「自社で何を守るのか」、「何を外部に頼めるのか」、「非常時に誰と助け合えるのか」を平時から考えておくことが大切です。

 

また、日頃の取引先との信頼関係も、事業再開を支える力になります。非常時に協力し合える関係性は、その日に突然生まれるものではありません。BCPというと自社内で完結する準備に目が向きますが、事業は取引先や地域とのつながりのなかで成り立っています。

 

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非常時の「余力」は、平時に蓄える

もう一つ、小さな会社にとって欠かせないのが、資金面の備えです。

 

コロナ禍が始まった頃、売上が急減し、短期間で資金繰りが苦しくなった企業や店舗もありました。非常時には、それまで表面に出にくかった収益構造や資金繰りの弱さが、一気に表れることがあります。

 

金融機関からの資金調達も、必要になったその日にできるわけではありません。私は当時、資金繰りに大きな問題がない会社から相談を受けたときにも、「借りられるうちに手元資金を確保しておきましょう」とお伝えしていました。

 

ここで思い出すのが、二宮尊徳の「分度」という考え方です。尊徳は、収穫のすべてをその時に使い切るのではなく、一定部分を将来のために残すことの大切さを説きました。いわゆる「四分分度」では、収穫の4分の3を現在のために用い、残りの4分の1を将来のために残すという考え方が示されています。

 

当時と現代では経営環境が大きく異なるため、「利益の25%を残せばよい」と単純に置き換えることはできません。それでも、「得たものをすべて使い切るのではなく、将来のための余力を残しておく」という考え方は、今の会社経営にも通じます。

 

備え方は、手元資金や内部留保だけではありません。災害による建物・設備の損害や休業などに備える損害保険や共済、経営者に万一のことがあった場合に備える生命保険など、外部の仕組みを活用する方法もあります。大切なのは、自社にはどのようなリスクがあり、どのような資金が必要になるのかを考え、それに合った備えをしておくことです。

 

会社のなかに利益を蓄えるだけでなく、万一の際に必要な資金を外部の仕組みで確保しておく。それも事業継続のための備えの一環です。大切なのは、「何かあったら考える」のではなく、平時から、自社に必要な余力を考え、準備しておくことです。

 

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非常時の強さは、平時の経営から生まれる

BCPは、災害のときだけ取り出す計画書ではありません。


「この人が明日来られなかったら、何が止まるだろう」


「自分が判断できなければ、誰が決めるだろう」


「いつもの仕入先から商品が来なかったら、どうするだろう」


「売上がしばらく止まっても、会社を続けられるだろうか」


こうした問いを、平時のときにこそ考えておくことが大切です。


大がかりな仕組みを必ずしも一度につくる必要はありません。「もし明日、いつも通りにできなくなったら?」という問いから、自社がつまずきそうな箇所を見つけ、一つひとつ備えてみてください。


非常時の強さは、非常時になってからつくられるものではありません。日頃の経営を整え、小さな備えを重ねておくこと。それが、社員やお客様、取引先、そして事業そのものを守る、小さな会社のBCPです。

 

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今日からできる「BCP」チェックリスト

1 もし明日使えなくなったら困るものを一つ確認する

「これが止まると困る」というものを一つ挙げ、代わりの方法があるか考えてみる。

 

2 「その人しかわからない」を一つ減らす

重要な連絡先、契約、口座、データ、判断方法などについて、「誰がわかるか」「どこを見ればわかるか」を確認する。

 

3 非常時に使える余力を確認する

手元資金、保険、代替先、協力を頼める取引先など、「何かあったときに頼れるもの」がどれくらいあるか見直す。

 


●参考資料(2026年8月現在)

中小企業BCP策定運用指針(中小企業庁) 

https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/

中小機構「BCPはじめの一歩 事業継続力強化計画をつくろう」

https://kyoujinnka.smrj.go.jp/

東京商工会議所「中小企業向けオールハザード型BCP策定ガイド」

https://tokyo-cci.meclib.jp/library/books/bcp/book/#target/page_no=1

2019年版小規模企業白書

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/2019/shoukibodeta/index.html

2025年版中小企業白書

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/shokibo/b1_2_4.html

 

 

有村 知里

アイパス経営コンサルティング株式会社代表取締役

中小企業診断士

 

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※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。