マイホームを新築し、第一子が誕生。人生のなかでもビッグイベントです。そのようなタイミングで思いもよらない辞令が下ることは珍しくありません。ある男性の決断から、現代の共働き世帯が直面する厳しい現実と、これからの働き方のあり方を考えます。
「子どもが生まれ、家を建てたばかりなのに…」月収42万円・34歳、退職を決意した「残酷辞令」の中身 ※写真はイメージです/PIXTA

家族3人の生活が始まった矢先の辞令

「これから家族3人で暮らしていくつもりでした」

 

田中大樹さん(34歳・仮名)。大樹さんは32歳で結婚し、翌年には長男が誕生しました。妻の美咲さん(31歳・仮名)は、育児休業から明けて、仕事に復帰したばかり。夫婦二人三脚で子育てに右往左往しているといいます。

 

さらに、以前から計画していた戸建て住宅も完成。約4,200万円の住宅ローンを組み、月々の返済額は約11万円です。大樹さんの月収は42万円ほど。決して余裕があるわけではありませんが、夫婦共働きであれば、十分に返済していけると考えていました。

 

厚生労働省『人口動態』によると、日本人男性の第一子の誕生年齢は33歳前後。国土交通省『令和6年度 住宅市場動向調査』によると、注文住宅(建て替えを除く)の一次取得者(世帯主)の平均年齢は40.3歳。大樹さんの場合、わが子の誕生のタイミングは平均的で、マイホームに関しては平均よりも若い年齢で実現しました。

 

ところが、引っ越しからわずか数カ月後。勤務先から転勤の辞令が出ます。勤務地は関西支店。期間は少なくとも2年間の予定でした。

 

「最初に考えたのは、妻と子どもを連れて行くのか、ということでした」

 

妻は時短勤務を利用しながら、仕事と育児を両立しようとしているところ。妻のキャリアを考えると、一緒に連れていく――という選択肢はありませんでした。一方、大樹さんだけが単身赴任すれば、家賃や生活費が二重にかかります。

 

会社からは、単身赴任手当が支給されます。それでも、現在の住宅ローンと赴任先の住居費を同時に負担すれば、家計への影響は小さくありません。

 

何よりも、子どもはまだ乳児です。それぞれの実家は東京から離れています。育児の担い手は夫婦しかいません。


大樹さんは上司に相談しました。勤務地の変更や、赴任時期をずらすことができないかと尋ねたのです。しかし、回答は「会社として決定した人事なので、変更は難しい」というものでした。

 

転勤そのものは珍しい話ではありません。厚生労働省も、転勤について仕事と家庭生活の両立という観点から、企業が考慮すべきポイントを整理しています。勤務地を限定する「多様な正社員」という働き方も示されています。つまり、転勤は単なる勤務地の変更ではなく、家族の生活設計にも関わる問題として扱われています。

 

一方で、企業側には人員配置の事情があります。本人の希望だけで辞令を撤回できるとは限りません。大樹さんも、そのことは理解していました。

 

「会社に文句を言いたいというより、今の自分には受け入れられないと思いました」

 

悩んだ末、大樹さんが出した結論は退職でした。