特殊詐欺から親の財産を守ったはずが、なぜか親子関係に深刻な亀裂が入ってしまう――良かれと思った息子の行動が、なぜ高齢親の強い反発を招いてしまったのでしょうか。ある家族の事例から考えていきます。
危機一髪でした…「300万円詐欺」を未然に防いだ52歳長男、〈年金月13万円〉82歳母から実家を締め出された理由 ※写真はイメージです/PIXTA

長男を名乗る男性「300万円、今日中に必要」

年金月13万円で暮らす安藤久美子さん(仮名・82歳)。夫は7年前に亡くなり、現在は一人暮らしです。
ある日の午前中、久美子さんの自宅に電話がかかってきました。

 

「会社で大変なことになった。300万円が必要なんだ」

 

電話の相手は、52歳の長男・英樹さん(仮名)を名乗っていました。英樹さんは会社を経営しています。久美子さんにとっては、息子の仕事がうまくいっているかどうかは、以前から気にかかっていたといいます。

 

電話の男は、会社の経営が厳しくなり、今日中に300万円を用意しなければならないと説明します。

 

「誰にも言わないで。銀行に行って、定期を解約してくれないか」

 

久美子さんは、息子を助けなければならないと思いました。そこで近所の銀行へ向かい、定期預金を解約しようとします。ところが、窓口で使い道について尋ねられたことで、話の内容に不自然な点があることがわかりました。銀行から家族への確認を勧められ、英樹さんに連絡が入ります。

 

連絡を受けた英樹さんは、すぐに銀行へ向かいました。

 

「母さん、俺は300万円なんて頼んでないよ」

 

その言葉で、久美子さんは初めて詐欺だったと知りました。

 

定期預金は解約されず、300万円も渡さずに済み、英樹さんは母のお金が守られたことに安堵しました。

 

警察庁の統計によると、2025年(令和7年)の特殊詐欺は認知件数が4万3,000件、被害額は約3,257億4,259万円に上りました。前年から認知件数は37.5%、被害額は63.6%増加しています。

 

オレオレ詐欺だけでも認知件数は3,630件、被害額は約139億3,971万円を記録しています(※従来オレオレ詐欺に含まれていた「ニセ警察詐欺」は1万1,014件、被害額約1,005億円)。

 

さらに、オレオレ詐欺の被害者のうち65歳以上の高齢者が占める割合は95.0%と極めて高く、70代や80代以上が集中して狙われています。

 

今回、久美子さんが狙われた「息子を名乗り、会社のために現金を要求する」という手口も、決して特殊なものではありませんでした。

 

ただ、英樹さんにとって問題は、ここからでした。

 

「助かってよかった。母さんももう気をつけてくれよ」

 

そう伝えたところ、久美子さんの表情が変わりました。

 

「私はあんたが困っていると思ったから、助けようとしたのよ」

 

英樹さんは、詐欺だったことをもう一度説明しました。

 

しかし、久美子さんは納得しません。

 

「私が何もわからないと思っているんでしょう」

「警察まで呼んで。恥をかかされた」

 

英樹さんは、母を責めるつもりはありませんでした。

 

「そういう意味じゃない。詐欺だから止めただけだよ」

 

そう話しても、久美子さんの怒りは収まりませんでした。