※写真はイメージです/PIXTA
元生活保護の母子世帯「働いているのに苦しい」理由
月収21万円と言っても、手元に残るのは月17万円ほど。健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税などが差し引かれます。
生活保護の給付を受けていたころは、給付額=手取り額でした。
月17万円から、まず家賃5万3,000円を払います。残るのは約12万円。そこから光熱費、食費、通信費、日用品を出さなければなりません。さらに、フルタイム勤務になったことで、新たな出費も増えました。以前は自宅で済ませることの多かった昼食も、勤務先ではそうはいきません。娘の帰宅時間に合わせて食事を用意するため、仕事帰りに総菜を買う日も増えました。
「節約しているつもりなのに、お金が減っていくんです」
児童手当は、生活保護を抜けても受け取れます。また、児童扶養手当も、就職しただけで直ちにゼロになるわけではなく、所得に応じて支給額が決まります。それでも、美咲さんが感じたのは、「月収21万円」という数字ほど、生活に余裕が生まれないという現実でした。
生活保護を受けていたころは、最低限の生活を維持するため、家賃や必要な医療費などが制度によって支えられていました。しかし自立後は、家賃も、美咲さん自身の医療費も、原則として自分の収入から支払うことになります。
もちろん、「生活保護を受けていたころのほうが裕福だった」という話ではありません。また、働き始めた瞬間に生活保護が打ち切られるわけでもありません。収入の状況によって保護費は調整され、収入が最低生活費を上回れば、最終的に保護から自立することになります。
それでも、美咲さんにとって現実は厳しいものでした。
「21万円を稼げるようになれば、生活は楽になると思っていました。でも、実際は毎月ぎりぎり。次の給料日まで、口座残高を何度も確認しています」
ある夜、娘が寝たあと、美咲さんはスマートフォンの画面を見つめながら、思わずつぶやいたといいます。
「もう働きたくない。疲れた……」
本当に仕事を辞めたいわけではありません。
生活保護に戻りたいわけでもありません。
ただ、働き始めれば生活はすぐに楽になる――「働くこと」と「生活が安定すること」は、必ずしも同時に訪れるわけではありません。だからこそ、現実との落差が大きかったといいます。
厚生労働省『令和3年度全国ひとり親世帯等調査』によると、母子世帯の母自身の平均年間就労収入は236万円、手当や養育費などを含めた平均年間収入でも272万円にとどまります。
美咲さんの月収21万円(年換算252万円)は平均よりやや高い水準ですが、生活保護から自立した後は家賃(住宅扶助)や医療費の減免がなくなり全額自己負担となるほか、社会保険料や税金も差し引かれます。その結果、受給時より実質的な負担が増え、「働いているのに苦しい」というジレンマが生じるのです。
母子世帯の就業率が86.3%に達する現在、単に就労を促すだけでなく、生活保護からの脱却に伴う負担急増を防ぐ段階的な経済支援のあり方が求められています。